さらに、保育園へ子どもを預ける親を非難するような発言も登場しています。「いくら一緒にいる時間を充実させるといっても、やはり一緒に過ごす時間の「量」も重要。仕事に置きかえるなら、どんなに素晴らしい仕事をしても、それが10分だったら企業は納得しないでしょう?」だいたいこんな感じのコメントでした。
仮に現在の日本の平均的な保育園児の実情を考えてみると、保育園に預けるのはだいたい9時間、睡眠時間があるとはいえちょこちょこ起こされるたびに対処しなくてはなりませんから、親の家事育児は15時間。21時頃から朝6時頃まで熟睡するタイプの子どもだとしても、保育園児の親は最低6時間の育児をしている計算になります。これを「10分しかしない仕事」と同列に語るって、極端すぎでしょ。
真面目な親ほど追い詰められそう
ついでに専門家のコメントによって、制度上産休・育休が少ないアメリカの母乳育児率の低さも引き合いに出されていますが、母乳か粉ミルクかってこの文脈で必要なんですかね? 保育園に預けて仕事をせざるをえないシングルマザーの紹介には、子どもと過ごす時間を確保できない社会を変えるべきとする主張とともに、「いつも一緒にいられない親子ってかわいそう」という上から目線なものを感じるのは私だけ?
パンフレットでは、「脳の発達は愛着関係に大きく影響を受けるけれど、この映画を観て『もっとがんばらなくちゃ』『いつも一緒にいてあげなくちゃ』『3歳までにもっと自然に触れさせなくちゃ』『完璧な親にならなくちゃ』と思い過ぎるのはかえって危険です」と、臨床心理士の本田淳子氏がフォローしていますが、いやいや、このパンフ(480円)を買わないと、真面目な親たちほど追いつめられそうな映画ですよ。
理想な育児とはほど遠い第3世界のスラムに暮らす子どもたちも登場するので、育児に関する公共政策の改善は世界規模で取り組まなくてはいけない問題であることは理解しつつも、自分の子育てのヒントになるかどうかと言われたら、まったく!ありません!と力強くお答えしておきましょう。
この映画を観た妊娠中の友人からは、こんな感想が届きました。
「映画に出てきたお母さんみたいに、歌いながら離乳食あげたりとか、私、絶対できないんだけど、どうしよう。コミュニティ内で協力しあって自然の中で遊ばせて食事もしっかり手作り、いつも母親が愛情たっぷりの言葉をかけてこそがいい未来をって感じで、ものすごくプレッシャー(笑)。あと、夫が積極的に家事をするほどお母さんと赤ちゃんがゆっくり過ごす時間が増えていいこと尽くし!って見せつけられると、気がきかない夫へのいら立ち増えまくるわ~。これからはじまる育児、気が重くなってきた……」
あなた結構ストイックなので、そこまで真に受けなくていいと思いますよ。といいつつ、私も全力でイラつきましたが。
日本の現状には則さない
映画のラストでは、作中でも繰り返し登場する「ひとりの子どもを育てるには村が必要、だからみんなで負担を分かち合う必要があるんだ」というアフリカの格言が歌になって流れます。ワンオペ育児中の身としては、「そうだよね~」と共感できず、「そう言われても現状どうしょもありません!」と心を削られる、鬱屈ソングとなって心身へ響き渡りました。
3歳児神話や、愛情をたっぷりかければ発達障害にならないと謳う親学、キャラものやテレビはNGであるシュタイナー教育や自然派ママ。それらの属性がある方には〈感動的ないい話〉と響くのかもしれません。日々の生活に追われまくり、世界へ視野を広げ、未来を考えることのできない意識低いワーママには、かなりハードルの高い「いのちのはじまり」でありました。
ああ、こんなことを言うと「この人はきっと人格が形成される幼児期に、親から十分な言葉をかけてもらえなかったのね」な~んて思われていたり。というのは冗談にしても、このお説がメジャーになればなるほど、そういった文脈でも使われるような気がしてなりません。
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