たどり着いたハプニングバーは会員制だった。キャリーがカメラに会員証をひらりとかざすと木製のドアが控えめに開く。中に広がっていたのは、意外にも昭和の喫茶店のような空間だった。こじんまりした部屋にはソファがあり、男性が数名くつろいでいる。女性も数人おり、全員何をしにきているのか夢子には不明だったが、めいめい自由に過ごしているようだった。
「好都合。男の客がいた。さあ、どれでも好きなちんぽを選べ」
キャリーが真顔でいったので夢子は面食らった。
「ええっ!?」
「これでまんこにちんぽが入る、よかったな。
「ちょっとそれは、あの」
「どうした? そうか、ここでプレイするのが恥ずかしいか。では付近のホテルに行けばいい」
「たしかに恥ずかしいけど、そういうことではなく……」
こころの準備が整っていなかったというのもあるが、まずいことに夢子の男性嫌悪が発動していたのだ。大勢の男性(数人であっても夢子には大人数に見える)と同じ空間にいることで、夢子はむかむかと吐き気を催していた。
「はーっ! 夢子さまのおめがねに叶う男がいない、ということか!]
キャリーはお手上げ、という風に両手の平と視線を天井に向けて皮肉った。
「お前、手術まで日がないんだろ? 偏食してる場合じゃないんじゃないのか?」
と今度は夢子の目をのぞき込む。一転して、労るような口調だった。
「ごめんなさい! 無理です! 連れてきてもらったのにすみません!」
キャリーの骨折りを無駄にしていまい、夢子は謝るしかなかった。
切り替えの早いキャリーは「ならばしょうがな」い、とハプバーの男性マスターにいろいろ話を聞けるように取り持ってくれた。こちらのマスターは性の営みに関してはその道では知らぬものはいないほどの権威なのだそうだ。
「子宮を摘出するんです」とカミングアウト
夢子はまず自分がヒステレクトミー(子宮摘出手術)を受けることを彼に説明してみた。「ええっ? 子宮を摘出するのかい? それはアンタ、女として不幸だねえ」という反応も覚悟した。より幸せでアクティブな人生を送るために子宮を取り外すのに、そんなこといわれたらうっとおしいだけである。
が、マスターは淡々と耳を傾けてるのみ。どうしてこんなにフラットに聞いてくれるのだろう。不思議に思いながら話すうちに目が慣れてくると、バーには女装した男体持ちもいることに気づいた。
(ここは子宮のある・なしで女性かどうかを決めつけたりしない場所なのだな)
合点がいった夢子は、思い切って「子宮を摘出した女性とのセックスは、ポルチオがなくなることによって、男の人にとって気持ちよくないものになるのでしょうか」と問うた。マスターは、断じた。
「ポルチオなんてそもそも存在しませんよ。私は何千人とセックスしてきました。だけど、ポルチオなんて感じたことないですね。
女性側の性感に関してこうもいった。
「摘出しても女性が子宮でイクことはできますよ。腕だって、切断後に痛みやかゆみを感じるっていうでしょ?」
「なるほど! 幻肢(げんし)のようなものですね!」
さすが性の達人のいうことには説得力がある。夢子は一気に視界が開けたような気持ちになった。
「子宮を取ったあとに、激イキするようになった女性だっています。そもそも女性が快楽を得るにはクリトリスがとても重要なんです。クリトリスの場所も把握せず、そこをきちんと刺激できもしないくせに“ポルチオ”などと騒ぐ男性のなんと多いことか。嘆かわしいことです……」
マスターはそれから女性器への正しい愛撫方法について5分ほど熱心に語った末、こう締めくくった。