
(C)河井克夫
また別の夜。
深夜しぇー子から電話があり、また部屋に行ってもいいかというので、大丈夫だと言ったところ、友達も一緒だがいいかという。
「友達?」
「うん、一緒に遊んでたの。笹王さんのファンだって。可愛い子だよ。」
しぇー子からの電話があるたびに、今夜こそはしぇー子の体を自分のものに、と毎回思うのだが、友達が一緒では、今夜もそれはまた難しいだろう。しかし、別のスケベ心も働いて、俺はOKした。電話の向こうで、その友達のものらしい「イェー」という声が聞こえた。
しばらくして、インターホンが鳴り、俺はドアを開けた。生成りのキャミソールにアロハシャツを引っ掛けたしぇー子の後ろに、髪を赤く染めたケバめの女が立っていた。
「これ、らー子。」と言いながら、しぇー子は俺の部屋にずんずん入っていく。
「すいません、夜分〜。」といいながら、らー子は玄関先でやたら装飾の多いヒールを脱ぎながら、お辞儀をした。ケバ目の化粧だが、重そうなつけまつげの下、零れそうな大きい目が笑顔になると細くなって垂れるさまは人の良さを表していたし、しぇー子に負けず劣らずぽってりとした唇は、濃いめのグロスでつやつやと輝き、すこし頬骨の高いのが気になった以外は充分に俺のタイプだと言えた。
「えー笹王さんって文章の印象から、もっと年いってる人だと思ってたー。ぜんぜん若いじゃないですかー。」
「そう若くもないよ。」
「えー、かっこいいしー。いいなーしぇー子、笹王さんと友達でー。」
なるほど、周りには俺は「友達」ということになっていたのか、と、しぇー子のほうを見ると、しぇー子はカーペットに座り込んで俺が出した缶ビールをぐびぐび飲んでいる。俺は軽くイラッとしたが、友達じゃないとしたらどういう関係なのだと考えると、妙な気持ちになった。
「らー子も友達になればいいじゃん。今日から。」と、しぇー子が放り投げるように言う。
「えー、いいんですかー。うれしいー。」
と、らー子も無邪気にこちらに向き直って微笑む。
しぇー子もらー子も、もうすでに相当酔っ払っているようだった。
「いいよいいよ。友だちになろう。じゃあ、乾杯」と、複雑な気持ちのまま俺も缶ビールを掲げて、口をつけた。
しばらく、他愛もない話をしながら3人で飲んでいたが、突然
「らー子はね、フェラチオの名人なんだよ」と、しぇー子が言いだした。
「やだちょっとやめてよー。笹王さん、会ったばっかりなんだよー。」らー子は目をくしゃくしゃにしながらしぇー子の肩をばんばん叩いた。
「えーいいじゃん、笹王さんだって興味あると思うよ。作家だし。」
「ほんとですかー? ひいてない?」
作家であることは関係ないと思ったが、もちろん興味はある。
「否定しないってことは、ホントなんだね。」俺はらー子に言った。
「んー。自信あるかもですー。」
らー子が缶ビールを掲げたので、俺も掲げて小さな乾杯をする。
しぇー子は部屋の中央のセミダブルベッドの側面にもたれて、遠くから自分もその乾杯に参加したが、そのビールは口に運ばずに手をおろし、投げやりに
「笹王さん、やってもらったら?」と言った。
「え。」
ちらっと、らー子の方を見ると、
「あ、笹王さんがよければ、あたしは別にー。」と、こともなげに言う。
その時、実は俺は相当うろたえたが、それを二人に悟られるのも悔しい気がして、
「あ、じゃあお願いしようかな。」と、スウェットのズボンに手をかけた。
俺がパンツ姿になったところで、3人爆笑して、その件はおしまい、という流れを予想してのことだったのだったが、しぇー子は酔っ払って据わった目のままだし、
らー子もただ、にこにこしている。俺はあとに引けなくなった。
「じゃあがんばりますー」と、らー子は、おれの腰の近くまですすっとにじり寄ると、俺のパンツをずるっと下げた。
自分でも意外だったが、俺のペニスは半立ちの状態になっていた。
らー子は指を揃えてそれを下から持ち上げると「あ、ちょっと大きくなってる。嬉しい。」とまた笑った。
しぇー子は相変わらずベッドの側面にもたれて、こちらを黙って眺めている。
「座ってもらったほうがいいかも」と、らー子は俺の腰を持って、傍にあったソファーにぐい、と座らせた。その力の強さが少し意外だった。
そのとき、らー子の顔を初めて正面から見る形になった。今までは化粧の濃さでよくわからなかったが、頬骨だけでなく、顎も骨ばっている。半開きだった唇が閉じられると、ごくんと唾をのみこむ音が聞こえた。らー子の喉が大きく動き、俺はそこに喉仏の存在を確認した。
驚いた瞬間、らー子は顔をかがめ、俺のペニスをぱっくりと咥えた。ノースリーブのワンピースからのびた筋肉質の二の腕が、俺の腰をがっしりと抱えていた。
呆然としている俺を見て、しぇー子が状況を悟ったらしく、言い放った。
「あ、気づいた? らー子は男だよ。」
らー子はおれのペニスを咥えたまま、右手をしぇー子のほうに掲げ、だめだめ、というように手を振った。
咥えられた瞬間から、俺の頭は、また別の驚きによって支配された。唇で雁首をすっぽりと包んだまま、口中で舌が縦横無尽に動き、亀頭を撫で回している。熱い唾液が潮のように打ち出されたかと思うと、それがまた啜り込まれる。俺のペニスはたちまち大きく固くなり、らー子の口いっぱいになった。らー子は一旦口を離し、
「すごい大きくなった。嬉しい。」と言った。今まで出していた声より若干低い声になっていた。
そしてまた咥えこみ、舌を裏筋に当てながら頭を上下させ始めた。じゅるっ、じゅるっという音が断続的に聞こえる。ペニスが熱い酸のようなもので裏側から溶かされていくようで、早くも俺は発射しそうになり、つい声を上げる。
「あっ…。」
俺の反応を察知してか、らー子は一旦、その動きを止めると、唇で絞るようにしながら、舌で亀頭を押し出すようにして、口からペニスを送出した。ちゅぱっ、と言う大きな音とともに口がペニスから離れた。俺のペニスはバネのようにぴんと反り返り、らー子の唾でびちゃびちゃになっていたので、反動で水しぶきが俺の顔にかかった。ぱんぱんに張り切って、てらてらと赤黒く光る亀頭を、らー子は満足気に眺め、愛おしそうにしばらく指で弄んでいたが、再び大きく咥え込むと、喉の奥まで一気に差し入れた…。
もちろんフェラチオされた経験は何回かあったが、こんなのは初めてで、今まで味わったことのない感覚だった。俺はらー子のテクニックに陶然となり、ぼんやりしていると、ふと、ベッドにもたれたしぇー子と目が合った。あまりのことにしぇー子の存在を忘れかけていた俺はどぎまぎした。酔いでしぇー子の目は据わったままだが、怒って睨みつけられているようにも思える。何か言おうかと思ったら、しぇーこが先に口を開いた。
「ねえ、笹王さん、あたし眠くなっちゃった。ベッド入ってもいい?」
しぇー子は俺の返事を待たずに、立ち上がってジーンズだけ脱ぐと、セミダブルベッドのシーツのなかに体を滑り込ませた。そして、手枕でこっちに向き直ると、
「お話してよ」と言った。
らー子は相変わらず俺の下半身を抱え込み、じゅぼじゅぼと頭を上下させている。
「い、今?」
「うん、フェラされてる人のお話、聞きたいな」
らー子の動きが止まった。ペニスから口を離し、興味深そうに俺の顔をみてにっこり笑うと、今度は、唇をすぼめ、舌の先だけ出して、珍しい形の笛を吹くように、ペニスの裏筋をなぞりはじめた。
新たな刺激に体を震わせながら、俺はつっかえつっかえ、お話を始めた。
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