
(C)河井克夫
一週間ほどして、またしぇー子は家にやってきた。驚いたことに、前回、らー子を連れて家にやってきたときのことを、しぇー子は全く覚えていなかった。泥酔していて、らー子を連れて俺の部屋に来たことまでは覚えているが、それからの記憶がなく、気がついたら自分の部屋に帰ってきていたという。その後らー子とも話をする機会があったが、らー子に至ってはもっとひどく、俺に会ったことなどはかけらも覚えてないとのことだった。
「しぇー子ちゃん、笹王さんと友達なの? いいなーって言われたよ。ホントに覚えてないみたい。笹王さん、印象薄いんだね。」
俺は笑った。
「ねえ、あたし変なことした? 笹王さんに、お話してってお願いしたことだけ、なんとなく覚えてるんだけど…」
そっちか、と思って俺は驚いたが、あの夜のことは、俺にとっても不都合なものなので、忘れていてもらってちょうどいい。
しぇー子が本当に覚えてないようなので、俺は調子に乗って、言った。
「変なことは別にしてないけど、俺とセックスしたよ。」
「うそ。らー子は?」
「家ついてすぐソファーで寝ちゃってた。」
「えーまじで? それはやばいな…」
しぇー子は顎に指をあてて考え込むポーズをとった。
「覚えてないの? じゃあ、思い出すためにもう一度しよう。」と、しぇー子を抱き寄せて、キスをしようとすると、それを拒んで
「いや、やっぱしてない! だって」と言う。
「だって何。」
「あたし処女だもん。セックスしたらそのあとしばらく痛かったりするでしょ?」
俺は仰天した。「え、そうなの? 嘘でしょ?」
しぇー子は俺に向き直った。驚いている俺の目をしばらく見据えていたが、やがて、ふっ、と笑顔を浮かべ、
「うん、嘘。でも今のリアクションで、笹王さんの言ってんのも嘘だってわかった。」と言った。
唖然としている俺に「ねえ、また着替え貸して。その前にトイレ貸して。」と言うと、しぇー子はそのまますーっと、トイレに立つ。
戻ってきたところに着替えのTシャツを渡すと、しぇー子は、「おなか空いたなー。でも寝る前だしなー。」と言いながら着替えを始め、いつものようにベッドに潜り込んだ。そして、いつものように「ねえ、お話して。」と言うのだった。
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