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「近くて遠い存在」キャバクラ嬢が抱く、女性であるがゆえの不安

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「小悪魔 ageha 2014年 01月号」インフォレスト

「小悪魔 ageha 2014年 01月号」インフォレスト

 messy女性読者の皆様におかれましては、よもやキャバクラに連日連夜通い詰める……などという夜遊びをしている方はおられないでしょうが、ともすればご自身がキャバクラ勤務だとか、友達が現役のキャバクラ嬢だとか、自分も昔体験入店だけしたことがあるという方がいらっしゃるかもしれません。しかしながら、キャバ嬢が身近な存在である、という人は実は限られていると言えます。

 当方、営業の仕事においてお客様とそういうお店にいくこともなくはないですが、日常的にキャバ通いをしているという男性は稀であり、感覚ベースで申し上げると30人にひとりか、それ以下という感じがします。近年の調査では「女子高生のなりたい職業」第1位にランクインしたことがあるというキャバ嬢(これは2007年の調査で『複数の異性と性経験がある』女子高生に限ったときのデータだそう)の世間における存在感はかなり大きいものに思われます。しかし、実際のキャバ嬢は「近くて遠い存在」に落ちついているのです。

 キャバ嬢の実態を少しでも知るきっかけになる雑誌といえば、数年前にブームとなった「小悪魔ageha」(インフォレストパブリッシング)でしょう。世間一般のキャバ嬢のイメージは、若さや美しさを武器に、男性とお酒を飲んでテキトーな話をするだけで高給を稼いで遊んでいる……といったものです。しかし、想定読者として東京だけでなく、地方都市で働くキャバ嬢にもフォーカスする当誌を読むと、実態としてのキャバ嬢はそうした享楽的なイメージとは大きく異なっていることがわかります。特に12月1日に発売された1月号で特集されている「ちょうちょ(※『小悪魔ageha』では、キャバ嬢を『ちょうちょ』と呼んでいる)の光と闇」という記事は、大変興味深く読めました。

 この記事では、全国のちょうちょさんたちにアンケートをとった結果「1カ月の最高に稼いだ額は?」という質問に対して「外車が新車で買えるくらい♡(メルセデス・ベンツだったら400万円ぐらい?)」、「サラリーマンの年収ぐらい♡(300万円ぐらい?)」、「バーキンが買えるぐらい♡(150万円ぐらい?)」と威勢の良い回答が寄せられる一方で、アフターでの恐怖体験として「ホテルに連れ込まれかける」、「ツブれるまで飲まされる」、「給料袋を盗まれる」といった経験談もあげられています。まさに記事のタイトル通り、華やかな光とおぞましい闇が隣り合わせな夜の世界をわかりやすく示しているではありませんか。

 歌舞伎町、六本木、北新地、西中島、中州、国分町、錦という各地の繁華街のちょうちょさんたちが語っている闇ストーリーも大変濃い内容です。奇しくも私は、西中島と中州以外すべての繁華街で飲んだことがありますが、街ごとに夜の雰囲気が異なるのと同様、街ごとに闇ストーリーも異なっている。例えば、日本一の歓楽街、歌舞伎町で勤務しておられる心愛さん(21歳)は、アフター後に無理矢理ホテルに連れ込まれそうになったとき、誰も助けてくれなかった、という孤独感を吐露していらっしゃいます。「区役所通りをぐいぐり引きずられながら、『やめて、離して!』って泣いて叫んでいるのに、道行く人はみんな見て見ぬふり」。区役所通りを歩かなければ、この言葉のリアリティはわからないかもしれませんが、これは重く響く言葉でした。

 北新地のホステス、紫乃さん(22歳)の言葉も夜の世界の厳しさを感じさせてくれます(北新地って不思議なところで、大阪市役所がある千代田区的な雰囲気の場所のすぐ近くに歓楽街が広がっているのですよね。これは東京に住んでいるとビックリしてしまう)。紫乃さんはクラブのなかに、個人のお店を持つような会計システム「口座持ち」で働いているホステスのひとりで、時には250万円の売掛金(お客さんのツケ。払ってもらえなければ全額自分の自腹!)を抱えたこともあるという猛者です。彼女にとって、お客さんが信用できるかどうかは死活問題。「会社訪問は必須で、新規を掴んだら早々に菓子折り持って会社に挨拶に行くねん。肩書きは本当なのか、会社は持ちビルなのかテナントなのか…。全部自分で確かめる」という彼女の生き様は、まるで取り立て屋のごとし。夜のビジネスの華やかなイメージとはほど遠い意外性を感じてしまいます。

 人の若さや美しさとは言うまでもなく移ろいやすいものです。それを売り物のひとつとしているちょうちょさんたちが美容にこだわるのは理解できます。しかし、老いゆくことへの恐れの他にも、金銭やお客さんの信用など不安の種をいくつも抱えていることが記事から伝わってきます。その不安定でリスクの高い働き方は、やはり限られた女性にしかこなしえないでしょう。ただ、ちょうちょさんたちが抱える不安の種は、ちょうちょさんだけが抱えるものではないものにも思われました。昼間の仕事に就いている一般女性にも通じているものがあるのでは、と。

 例えばちょうちょさんたちの「いつまでこの仕事を続けられるのか?」という不安は、「結婚したら(子供を産んだら)今の仕事はどうしよう?」という不安とも通じているでしょう。また「老い」も、ちょうちょさんたちに限らず多くの女性にとって気になる事柄のはずなのです。こうした一般女性とちょうちょさんたちの不安のなかに共通項を見つけていくことで「近くて遠い存在」であるちょうちょさんたちをより身近に感じられるのではないでしょうか。「女性であること」を商売道具にしている職業上、彼女たちの不安には「女性であるがゆえの不安の色」も濃いように思われます。今回『小悪魔ageha』を熟読したことにより、これは女性の幸福を考える「恋愛コンサル男子」として見逃せない雑誌だと痛感しました。

 ■カエターノ・武野・コインブラ /80年代生まれ。福島県出身。日本のインターネット黎明期より日記サイト・ブログを運営し、とくに有名になることなく、現職(営業系)。本業では、自社商品の販売促進や販売データ分析に従事している。

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カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra