ノジル:性器に触れたり、性的な行為をするたびにやたら「実験」という語を使ますよね。
桃 子:健康のための実験だ、と。
ノジル:その健康効果もトンデモばかりなのですが……。
桃 子:健康というものをあいだにはさまないと自分の性と対峙できない。そういうエクスキューズが必要なのもわかりますし、共感する読者もいるでしょう。でも「健康のために」性の忌避感を乗り越えたいって動機はかえって不純だと思うし、それでも拭えない恥ずかしさに読者をいつまでもつき合わせないでほしかった。性については羞恥でクネクネしながら語るより、背筋を伸ばして語るほうが伝わると思うんです。
ノジル:バイブレーターなどのラブグッズについても、ポジティブではない発言が見られましたね。
桃 子:「欧米ではオイルを使った会陰マッサージが常識」といった内容がくり返されますが、その欧米にはすばらしいラブグッズブランドがいくつもあって、それを女性が積極的に使うことも常識、ということは耳に入ってこないんでしょうか?
ノジル:ただの舶来信仰っていう印象が拭えないですよね。
桃 子:あと、膣のケアもアーユルヴェーダが基本になっているのでオイルで行うと紹介されていますが、食用のオイルや“キュアリング”……。
ノジル:キュアリングって、単に加熱処理なんですよね。なのに、そこはしっかりわかりやすく説明しないで、なんとなく専門っぽい雰囲気だけ漂わせることを優先する不誠実さ。
いやらしいオバサン、と露悪的
桃 子:うん、そういうオイルを使うより、性器のケア専用のオイルや美容液が数多く販売されているんだから、そちらを使ったほうがよほど安全ですよ。国内では少ないけど、その手のケアアイテムは盛んに輸入されていますし。欧米から。
ノジル:さっきの翡翠と同じで、「オイルは自然」って発想なんじゃないかな。
桃 子:ケアアイテムにも、オーガニック商品あります(笑)。私はオーガニックにはこだわらないけど。
ノジル:ボディケアの話かと思いきや、結局はスピリチュアルなんですよね。だいたいオイルが皮膚や粘膜に残ったらそれこそ雑菌が繁殖して膣炎になりそうなのに、性器周辺の洗い方とか、衛生面にはほとんど言及されない……よほど膣にとってよくない環境だと思うんですが。
桃 子:スピリチュアル的に処理したオイル=きれい、というヘンなすり替えがありますね。でも、衛生的ではない。ちなみに欧米では、デリケートゾーン専用洗浄剤で洗うのが常識ですけど、そういう大事な情報はほとんど伝えられないんです。結局この方は、スピのフィルターが強くて健康とも性とも向き合えていませんよね。なのに、「女性の健康に関する本です」といった体(てい)で、自分自身の体験だけを証左にして効果を謳う……だから、読んでいてツラかった。
最後にはバイブを使って快感も体験し、急に「私は、女性特有の不調を訴える女性がいると、パートナーとこまめに気持ちいいセックスをするかバイブレーターを買った方が良いよと忠告する最高にいやらしいオバサンになったのだ」とドヤりはじめる始末。私なら不調を訴える女性がいたら、病院で診てもらうよう勧めますね。それから、バイブを使うという官能的かつ健康的な行為に、「いやらしい」という露悪的な言い方はしたくないなぁ。
* * *
ああ、話が止まらない。まずは私から『ちつのトリセツ』における、劣化という言葉にこめられた女性への呪いや、性に対する忌避感から発生しているさまざまな誤解についてお話しました。でもそのほかにもトンデモ要素がざくざくと……。続きは来週火曜掲載、山田ノジルさんの「スピリチュアル百鬼夜行」で!
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