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演劇ユニット「ブス会∗」による、谷崎潤一郎作品の男女逆転版朗読劇。若い男を愛でる女のギシギシした想い

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リーディング「男女逆転版・痴人の愛」 写真:宮川舞子

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 過激な性描写や社会風刺を盛り込んだ作品たちの中には、文学作品を原作や下敷きにした演目も数多く存在します。文章だけで描かれた世界が視覚的に展開されることは、行間や空気感の散逸や自身が想像したイメージとの差異から敬遠されることもありますが、そんな原作の愛読者にこそ観てほしい舞台ならではのパフォーマンスが、朗読劇です。

 朗読自体は、学生時代に誰もが学校で経験したことがあると思います。いくら演技力がある俳優によるものといっても、手に台本を持ち独白が続く朗読をながめることが本当に楽しいものなのか、それは舞台の多彩なジャンルの中でももっとも、体験しないと実感できないものかもしれません。

 7月15、16の両日に上野の古民家ギャラリー「ギャラリースペースしあん」で開催された、演劇ユニット「ブス会」のリーディング「男女逆転版・痴人の愛」は、谷崎潤一郎の『痴人の愛』を現代に置き換えて描いた朗読劇。演劇、そして朗読ならではのエロティックさも然ることながら、性別を逆転することで、男女の愛の形について観客の心を深くかき乱すエキサイティングな公演でした。

40歳の女性と、15歳の少年

 ブス会は、AV監督としても活躍するペヤンヌマキが主宰し、全作品の脚本と演出を担当。女性なら誰もが身に覚えのあるようなエグい内面や日常を鋭く描き出し、2010年のユニット立ち上げ時から演劇ファンの熱い人気を集めています。主人公を演じる安藤玉恵とは、旗揚げに参加した劇団「ポツドール」時代からの“盟友”であり、リーディング「男女逆転版・痴人の愛」は、「ペヤンヌマキ×安藤玉恵 生誕40周年記念ブス会」と銘打って、人生で大きな転機になりうる年齢を迎える女性たちの心を、同年齢だからこそのリアルさで描写しています。

 主人公の洋子(安藤玉恵)は、大学院まで西洋美術史を学び、大学で教鞭をとる仕事人間な独身女性。40歳のとき、母親の命日の雨の夜に神保町のバーで、美しい少年、ナオミ(福本雄樹)と出会います。まだ15歳のナオミがバーに入ってきたのは、「いい匂いがしたから」で、その日洋子は、母親の形見の香水をつけていました。こういう、文字どおりの作品の“匂い”を、セリフのふりをした説明ではなく違和感なく受け取れるのが、優れた朗読劇の魅力です。

 恵まれない家庭で育ったナオミを洋子が引き取ることにしたのは、「長年の独身生活に飽きたから」。「今の日本の結婚制度は、女性にとっていいものではない」と、ナオミに服を買い与え教育を施し、本人が望むなら養子にすることも考えます。

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

@westzawa1121