セックスに正解はないとわかっていても、本音をいえば誰かから答えを教えてもらいたい。だからこそ、ハウツーセックス本はいつの時代も注目を集め、ときにベストセラーとなります。でも実際、ほんとうに役立つの? そんな疑問に答えるべく、時代を彩ったハウツー・セックス本を再検証。盗めるワザは盗んじゃえ!
「HOW TO SEX―性についての方法 」(ベスト新書)
著者:奈良林 祥
2004年11月発売 ベストセラーズ ※オリジナルは、1974年3月刊行『新HOW TO SEX』
キティちゃんが誕生し、セブンイレブンが第1号店を出店した1974年。そのものズバリのタイトルで発売された本書は、300万部の大ベストセラーを記録しました。
ヒットの理由は、フルカラーで掲載されたヌード写真。悩ましい表情で身体をくねらせる全裸の女性と、彼女に絡み付く男性……日活ロマンポルノのような叙情に満ちたカットです。アダルトビデオが台頭する1980年代はまだ先のこと、オカズに飢えていた当時の青少年たちは、本書を有効活用していたようです。実際、「これでヌイていました」という50代男性の話を聞いたことがあります。
とはいえ、それだけで爆発的な売れ行きとなったわけではなく、医学の裏付けがある内容と、ざっくばらんな語り口が支持を集めたことは一読すればわかります。著者の産科医・奈良林先生は大正8年生まれ。日本初のセックスカウンセラーとして、40年間も性の悩みに耳を傾けてきた人です。
(処女膜について)
人間の他には、もぐらのメスに
処女膜らしいものがあるということになっているけれど、
まあそんな、わけのわからないようなことに
ぎゃあぎゃあ関心を寄せることもないと思うけどね。ーー本文より
本書はセックスにまつわる相談に答える形で構成されています。男性からは「短小」「包茎」「早漏」「ED」。女性からは「ゆるい」「妊娠中のセックス」「セックスが終わったら男は冷たくなる」……。時代が変わっても男女の悩みは変わらないようです。回答は奈良林先生の話し言葉でつづられますが、名言がぽんぽん飛び出します。上記の、処女膜についてのコメントもそのひとつ。
ほかにも、「上手/下手」で計られがちなテクニックも、先生によると「賢い/愚か」の違いです。前戯は女性にとって何のために必要で、それをすることで自分がどう気持ちよくなれるかを理解していれば、女性のどの部分を刺激すればいいかが自ずとわかり、彼女も悶え出すというもの。なるほど、サルのように腰を動かすだけの男には、女性を気持ちよくするのは無理な話です。厳しい回答でも、奈良林先生のユーモアに満ちた人がらのおかげか、何となく牧歌的。おおらかな気持ちで読み進められます。
結婚してから脱童貞・処女を迎える相談者が多かったり、“旧赤線”という語が唐突に出てきたり……時代を感じる部分はあります。でもその一方で、まるでいまの“ニッポンのセックス”を予見していたかのような記述も出てきます。
「(男性にとって)空想を伴わない自慰は(中略)幼児的な異常性欲に固着させてしまう」ゆえに、まともなセックスができなくなると指摘。現在、過激な二次元コンテンツをオカズに、オナホールを使ってするマスターベーションに慣れきっているために、生身の女性ではイケなくなる男性が増えています。まさに先生が見越したとおり! また、「性交はよろこびの起爆点としてあるものであって、ペニスを膣に入れるためにあるんじゃない」という力強い言葉は、本来は男性に向けられたものですが、自分の快感は二の次で、チ○コをひたすら接待して男性の歓心を買おうと提案する、某女性誌を批判しているようにも読めるのです。
時代が変わっても、セックスの本質は変わらない…そう思って読み始めた本書。しかし読後は「この国のセックスはますますおかしいことになっているかもしれない」と危機感を募らせる結果に終わりました。奈良林先生の先を見通す力に、脱帽するばかりです。
お役立ち度【女子】 ★★★☆☆
お役立ち度【男子】 ★★★★☆
セックスへの理解が深まる ★★★★★
テクニックの実践しやすさ ★★★☆☆
(取材・文=三浦ゆえ @MiuraYue)