
神社に「パワスポ」「ご利益」ばかり求めてない? Photo by ajari from Flickr
御朱印集めやパワスポ巡りが平凡な趣味であると思えてしまうほど、巷ではカジュアルに楽しく神仏の世界に触れるノリが拡大中です。大手通販会社のフェリシモは、代金の一部が伊勢神宮の式年遷宮基金として運用される財布やら、仏を彫るキット(その名も「私の秘仏」!)やらを販売。ビッグサイトで行われる美坊主コンテストや供養女子コンテスト、「神さまがIT化した」と話題の御朱印AR(拡張現実)なども、さぞかし夏のイベントを盛り上げていることでしょう。
しかしこれらは時代に合わせ形を変えているだけで、さほどおかしな物件ではありません(面白いけど)。神仏に親しみを覚える人が増えたことと「日本スゲー」的ナショナリズムとの合体で生まれたと思われる、スピ界の「なんちゃって神道」が、本日のメイン物件です。
特に神道は絶対的な教義・経典がないことからか、スピ方面では神道世界を死ぬほど都合よく解釈したトンデモトークが山のように見つかります。一例をご紹介しましょう。
まず、当連載イチオシのトンデモ神道といえば、ジェムリンガ(膣に入れて使うパワーストーン)や子宮系女子(子宮の声は魂の欲求!と主張する一派)の主張する、「膣は参道(産道)、子宮はお宮。だから女性は体の中にパワースポットを持っている!」説です。台所を神社に見立てて料理すると開運するよと謳う「神様ごはん」も、いい味を出していましたね。
本職は神道ブームをどう見るか?
トンデモ本の総本山と言われるサンマーク出版からは、『成功している人はなぜ神社に行くのか?』(八木龍平著)なんて定番のビジネス本も登場。「神社の神さまとは、地球外でも活動できる宇宙生命体」「この神社に行けば、成功者マインドが勝手に身につく!」「アイドルのコンサートは、神社のかわりになる」など何がなんだかもう……です。こんなものはほんの一部ですから、私の知らないさらなるディープな世界が果てしなくあるでしょう。
で、本題。こういった好き勝手な神道トークを、本職はどう思っているのか。そんな私の素朴すぎる疑問におつきあいしてくれたのが、神社本庁に所属している某有名神社にお勤めのK氏。「何が正しいのか、というのを判断するのはむずかしいですが、私にとっては“神社本”の発行している書籍などからしか読み取るしかないと考えています。そのような立場からでよろしければ」と回答してくれました。
K氏「ブログやフェイスブックなどで、狩衣(かりぎぬ=神職の装束)を着けているなど、いかにも本職のように見える方が、神道や神話、祝詞の解説をされているのを見かけます。しかし、たとえば彼らの神話の解説を見てみると、古事記や日本書紀の原本を読んでいない、口語訳されたものだけ読んでいるような文章が目立ちますし、拡大解釈しているものも多い。祝詞の解説に至っては、〈自身の標榜する古神道〉に従って祝詞を作る、という人も見受けられました。ネットで意見を言うのは自由でしょうが、せめて〈独自解釈による、古神道・祝詞入門〉程度に明記すべきです」
「俺の祝詞!」って何だか中二病風味漂いますね……。ところが「これが効いた」という〈マイ・祝詞〉は、自己流神道ネタの定番になっているようで、『神様、福運を招くコツはありますか?』(桜井識子著・幻冬舎)では、棒読みではなく現代語読みでもなく〈それっぽく唱える〉ことがコツなんてアドバイスが。前出『成功している人は、なぜ神社に行くのか?』では歩きながら祝詞を唱えつづけると〈マインドフルネス〉になるんだとか。
原書を読む以前の問題だと思われる、子宮系女子の主張する「膣は参道=産道」説は、いかがでしょう。まあ、ただのダジャレでしょうけど。
K氏「ネットで見かける『神社の全体構造は女性器を模したものだ』という文言ですよね。私も気になってあれこれ調べましたが、不思議なことにどの記事も、神道系の書物や神話などから引用をしていません。もしかしたら、これを書いた方は〈ただ思っただけ〉なのでは」
なぜ女性だけが神聖なのか?
おそらくおっしゃる通りで、「子宮の声がそういったから」というノリである可能性が大きいでしょう。しかしそのトークを真に受け、自分は神聖な存在! と自己肯定感を高めておかしなテンションになり、「子宮は神社」というトークを拡散する人も少なくないようです。
K氏「神社の原初形態は、巨大な岩(磐座 いわくら)や山(神体山)での祭りのときに、臨時で作られた祭壇であると言われています。これが現在の神社建築になった理由はさまざまありますが、だからといって女性器だと断言できる根拠はありません。何の理由もなく断定して、『女性の体は神聖です』と言い切れるのは、不思議ですね。女性の体が神聖なら、男性の体は神聖ではないのでしょうか。神聖でないならその理由は?」
「女が神聖!」と主張する人たちの考えはおそらく、〈子どもを産める創造性〉とやらを持っているから、の一点に尽きるようです。とはいっても男性がいないと産めないので、どうやっても詭弁でしかないのですが。
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