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【官能小説】セミダブル千夜一夜 第七夜 舐め犬と飼い主

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(C)河井克夫

(C)河井克夫

 しぇー子が泊まりにくるようになってもう半年近くになる。

 相変わらず夜中に急にやってきては、俺のベッドに潜り込み、しかし決して体を許さず、なぜか俺に「お話」をねだっては、聞いたり聞かなかったりして、寝てしまう。俺も最近では完全にそれを許してしまっている。

「しぇー子は、あれだね。猫みたいだよね。」

 ある夜、俺が仕事をしていると、酔っ払ってやってきて早々にベッドに潜り込んだしぇー子に、半ば呆れながら俺は言った。締切が近いので、今夜はしぇー子をどうこうしようという気はおきない。明日までに何枚か書いて編集に見せないとやばいのだ。

 とはいえ追い返すことまではできないのが俺の弱みで、一旦は「仕事してるから、勝手に寝ろ。」と言って机に向かっていたものの、気分転換を言い訳に仕事の手を休め、コーヒーを淹れ、カップをすすりながらベッドに腰掛けて、しぇーこに、そう話しかけた。

「なにそれ。」

「呼ばないのに勝手に来るし、来たからっつっていう事聞かないし。触ると逃げるし。」

「あたし、猫キライ。」

「へー。意外だな。猫好きそうなのに。」

「猫はあたしのこと好きだよ。野良猫よく寄ってくるし。でもこっちは好きじゃない。うまくいかないよね。」

「…俺のこと言ってんの?」

「笹王さん猫なの?」

「いや、猫じゃないけどさ」

「笹王さん、うさぎっぽいよ。」

「なんで」

「目、赤いし。」

「寝てないからだよ。ほっとけよ。」

「飼うんなら犬がいいな。大きい犬。小さい犬キライ、うるさいもん。」

「ふーん」

「ね、犬の話して。大きい犬の話。」

「忙しいんだよ。締め切りがあるんだよ。」

「そんなのすぐ書けるよ。笹王さん才能あるから。」

「なんだよ、こないだは才能ないっつってたぞ。」

「ねえ、してよ、お話。」

「…。」

 俺はせめてもの嫌がらせに、「大きくなった小さい犬」の話を始めた。

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河井克夫

漫画家、イラストレーター。官能小説の挿絵を描くのが夢だったので、ご指名いただいて光栄です。近著「女神たちと」「久生十蘭漫画集」(ともにKADOKAWA刊)

twitter:@osuwari

バーキン滝沢

ライター。3度の飯より占いが好き。牡羊座、四緑木星の水星人マイナスです。