
果たしてちんぽは届くのか。イラスト/大和彩
長いこと、夢子は病気の原因である俺のことが大嫌いだった。だが子宮である俺を摘出することになったとき、ヤツはネガティビティにまみれたその認識を変えたいと思ったーーつまり、内面のパラダイムシフトが必要だと考えたんだな。このプロジェクトは、俺への認識をポジティブなものに上書きすることで、自分の心の在り方を大きく変えることが目的でもあるんだ。
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よう、また会ったな、子宮だ。
その店は、年齢・BMI制限のない性感マッサージさんだった。ブログもやっていて、文章に好感がもてた。女性を性感マッサージすることに対してハァハァと興奮している空気がなく、どこか冷めたふうである。「クンニとは」「膣イキとは」と説教臭く語っていないのもよかった。
なにより、本業は整体師さんらしい。まず最初に整体をしてから性感マッサージを施術するようで「●●さんの場合、ここの筋肉を緩めればもっと感じやすくなる」などとブログに書いてある。整体なら腰痛でちょくちょく行くことがあるからなじみがあるし、どうせ体を預けるなら筋肉や骨格の知識がある人がいい。万が一、性感マッサージがハズレでも、ふつうの整体を受けたと考えれば、精神的にもラクだろうし。
手術があるので2週間以内にアポをとれればありがたいと予約メールに書いたところ、早々に返信があり、翌日に施術可能だという。まさかそんなに早く予約できると思っていなかったので、手持ちのお金がなく、夢子は焦った。明日マッサージにかかるのであれば定期預金を解約せねばならない。今日は金曜日、夕方の5時を回っている。たしか定期に関するATM操作は、平日しかできないはずだ。
すぐに予約しなきゃ!
もうダメか? それともATMはまだやっているのか!? 夢子は慌てふためき、ネットでATMの営業時間を検索、まだ1時間ほどやっていることを確認した。すぐさま通帳とキャッシュカードだけ手にもち、ノーメイク、ぼさぼさ髪のままATMに走った。
自分がなにをしているのかよくわからなかった。アパートの階段を下りるときもふわふわして現実感がなく、転げ落ちないように気をつけた。
いくら必要なのかが、わからない。性感マッサージの内容もぼんやりしているし、どのくらいの金額がかかるのかもはっきりしない。ああッ、こんな不明瞭な用途になけなしのお金を使うなんて! なんだか泣きたくなった。多めに引き出したお札を掴む手がじっとり汗ばむ。
それでもゼイゼイ荒い息で部屋に戻り「明日、お願いします」と返信のメールを送った。
すると、マッサージに望むこと・NG事項などを記入して事前に提出するアンケート、さらには性病検査の結果表まで送られてきた。丁寧なところだな、と夢子はすこし安堵した。