
果たしてちんぽは届くのか。イラスト/大和彩
子宮は誰のためにある? 赤ん坊のためか? 男のためか? 両親のためか? 世間のためか? NO!! 答えはそのどれでもない。 子宮は、子宮の宿主である女性のためにある! 子宮を使うか、使わないか? 選択するのは、お前(女性)自身だ!
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よう、また会ったな、子宮だ。
前回は、お願いした性感マッサージにて、夢子がこのプロジェクト始まって以来、初の快楽を得られたかと思いきや、帰宅してから肉体と精神、両方の具合が悪くなったところまで話したよな。
中年男性と性的なことをすると、過去に父親に虐待されてきた夢子のPTSDが炸裂することが実証された。
あれから3日経つが夢子は過去のトラウマがよみがえったせいで、吐き気と戦いつつ、布団に寝たきりだ。食事は1日1回カロリーメイトをひと箱むさぼるだけ。お腹が空いてないわけじゃない。食べないほうが精神的にラクなんだとさ。あいつ、自分にはメシを食う資格がないと思ってやがる。腹が減っても食わないことで自分に罰を与えなくてはいけない、という間違った認識をもっている。
「夢子! お前はなにも悪いことはしていない! なぜ自分に罰を与えるんだ! 布団に寝ていても何も解決しない。俺とPDCA回すんだ」
呼びかけたが、夢子は「ううう~」とうめくばかりで返事はなかった。
精神的な問題だけじゃないようだ。下腹部の痛みと出血はまだつづいている。これまでピルを1日でも飲み忘れると不調になってきた我々のボディ、いまや休薬から数週間経過している。体調が悪いのだ。
子宮内膜症はとにかく、痛い。全細胞が、全身全霊が、痛い。自分は痛みを感じるだけに生まれ、存在しているのではないかと錯覚するほど、「痛い」以外の感慨はいまの夢子にはなかった。
性感マッサージは気持ちよかった、けど。
この苦痛に苛まれると、夢子がいつも思い浮かべるイメージがある。美術史で習った絵画に、生きたままの人間の小腸をウィンチで巻き取りつつ体から引っ張り出す中世ヨーロッパの拷問の様子を描いたものがあった。持病の痛みに苦しめられるとき、いつも夢子はこう思う。
(子宮内膜症の痛みは、「小腸ウィンチ巻き取りの刑」の痛みに匹敵するんじゃないかしら……)
夢子自身、「寝ていても何も解決しない」のは承知しているから痛み止めを使っていた。飲み薬タイプのものでは効かないのでアナルにぶっ刺すタイプのやつだ。本当は6時間の間隔をあけて使用するものだが、辛抱ならないので2時間から4時間置きにぶっ刺していた。袋いっぱいの痛み止め座薬があっという間になくなってゆく。
体が冷えてたまらん。パジャマの下には常に股引を履き、腹や尻にホッカイロを4枚くらい貼っている。小型ホットカーペットを布団に持ち込んで常に臀部がそこに載っているようにしなければならない。それを怠るだけで夢子のけつっぺたは冷え、耐えがたい痛みに悩まされる。
布団にくるまって寝ようとしても、目をつぶると性感マッサージの様子を思い出してしまって胃液がせり上がる。夢子は悟った。相手がとても親切で、気持ちよいマッサージを施してもらったとしても、PTSDは発症することを。