「もう出なきゃいけないんで、いいっすか」
訳:「さっさと起きて服着て帰れ」
「ああっはいすみません!」
放心していて気づかなかったが、もうそんなに時間が経っていたのか。時間が足りなくなりそうだったので、髪やメイクは直さないまま、あたふたとホテルを出た。
舐め犬さんはこちらの職業も最寄り駅もLINEも聞いてくることはなく、「じゃーねー」と軽いノリで消えていった。夢子は強く思った。
「そう、こういう後腐れのなさが好きなのよ!」
整体師さんも舐め犬さんもこちらのプライバシーを詮索してこないし、快楽のツボも心得ている。なのに腰が低い。「自分は変態ですから」と謙虚でもある。ハプニングバーでも感じたが、性に関して先進的な人ほど、他人に思いやりがあるのかもしれない。他人との境界線を尊重して乱暴に踏み込んでこない人に、夢子は心地よさを感じるのだった。
さらにこのMTGで、夢子は重大な気づきを得た。いままで自分は全男性に対して嫌悪感を抱くのだと思い込んでいた。だがどうやらまだ中性的な雰囲気が残る、見た目の若い男なら生理的に大丈夫らしい。証拠に、舐め犬さんと時間を過ごしたあと、ウディさんの後のように体からの暴力的な拒否反応はでなかった。
実技で気持ちよくなろうと、相手がとても親切だろうと関係なく、自分は男性の見た目で生理的拒否反応が出る。人を見た目で区別しなければならないのは悲しいことだが、夢子が健康に生活していくうえでは向き合っていかねばならない事実である。今後はそのことを頭に入れて活動していこう、夢子は思った。
今回の反省ポイントとは?
反省しなければいけないこともいくつかあった。
「シャワーしないままに性器を舐められただと? ばい菌が尿道に入って膀胱炎になるぞ! あとオーラルセックスの前は、自分もパートナーもマウスウォッシュでうがいするのが鉄則だ! お前は洞窟に住む原始人か? リスクの高いことをしやがって!」
衛生管理を怠ったことを、後に友人のキャリーにこっぴどく叱られた。
そうだった!! 夢子は震えあがった。膀胱炎になんかなりたくない。しかも性器エリアを手術する直前に不注意でなるなんてもっての外。今回のように相手のペースでなしくずしに行為を始めるのではなく、今後は自分で主導権を握らなくてはいけない。
さらにPDCAをまわさずに家を飛び出してしまい、肝心のちんぽが入らない可能性について考えずに行動してしまった。手術まで約2週間しかなく、今回はちんぽにかすりもしていない。
またひとり、挿入をしてもらえなかった。
計画なしに、成功はつかめない。こんなことが続くようではミッションをいつまでも果たせないままである。PDCAはもう、忘れないにしよう。
手術までの限られた時間までに必ずちんぽを迎え入れなくてはならない。そうじゃないと摘出の価値は半減だ。夢子は病気のために俺を卒業させざるを得なかった、とは絶対に思いたくなかった。俺の処置は自分の積極的な意思をもって選び取ったものなのだ、と今後の人生で胸を張れるようにしたい。子宮のあり・なしでの性感覚の違いを知り、伝えられる人になりたいのだ。入院までにまんことちんぽをジャストミートさせるよう、全力を尽くす!! 夢子は心にそんな決意が固まっていくのを感じた。
舐め犬さんがよいタイミングで笑顔になってくれたおかげで落ち着いたことを思い出し、今後、自分もスマイルを忘れないようにしようと考えつつ夢子はひとり、反省会をするのだった。