前回、このコラムのために『SRサイタマノラッパー(以下、SR サイタマノラッパー2』(2009年)を拝見して大変面白かったので、今回は続編である『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(2010年)について書かせていただきます。
『SRサイタマノラッパー』は、どこにも行けず、何者にもなれない若い男性の苦悩と痛みを描いた映画でした。『SR サイタマノラッパー2』は、そろそろもう若者とは自称できなくなってきた27歳のこんにゃく屋の一人娘、アユム(山田真歩)が主人公です。
主人公がどこにも行けず、何者にもなれない、というテーマは前作と同じまま、『SR サイタマノラッパー2』のヒロインは、それらの苦悩に上乗せされる形で、20代後半の独身女性であることから生じる重圧とも戦っています。
「群馬」の風景
『SR サイタマノラッパー2』の舞台は、前作同様北関東エリアに存在する「群馬」です。前作では、だだっ広い国道沿いのラブホテル・チェーンレストラン・パチンコ店……と文化の真空エリアが舞台でしたが、今作は、「サイタマ」よりもさらに山奥の設定です。
「群馬」は行けども行けども山が連なり、川が流れ、山の麓まで何も視界を遮るものがない、なかなか風光明媚な土地です。けれど人間はあまりおらず、レコード屋やライブハウスどころかコンビニのような商業施設自体、一切ないような土地。過疎の村といった雰囲気です。
このような土地で、仏壇に祀ってある亡くなった母の写真の後ろに2パックやノトーリアス・B.I.G.の写真を隠しているアユムは、かなり浮いた存在であることが推察されます。
不況の現実
アユムは高校の文化祭でラップを披露したときのグループ、B-hackを再結成し、ライブを成功させようと奔走しています。ちなみにアユムの地元にライブハウスはありません。
B-hackメンバーのアユム、ミッツー(安藤サクラ)、マミー(桜井ふみ)はそれぞれ27歳。アユムは実家のこんにゃく屋を手伝ってお給料をもらっており、ミッツーは、母が借金だけ残して遁走したため、地元に戻って家業の旅館を手伝っています。マミーは男に貢ぐ風俗嬢で、ソープランドに勤めています。
3人とも働いて給与を得ているわけですから、前作のニートラッパーよりはるかに自立し、地に足付いた生活を送っていると言えます。
野外ライブをやるには100万円用意する必要があると言われたアユムたちは、あらゆるバイトでお金を貯めようとします。アユム、ミッツー、マミーは働いているけれど、100万用意するのは難しいというレベルの収入です。
もしこれが、もう少し景気の良い時代の話であれば、20代後半の3人の収入や貯金で、100万円くらいなんとかなったのではないか? という気がしてなりません。けれど、不況の今、100万貯めるのは、至難の技です。
しかも不幸なことにみんなで働いて貯めたライブ資金は、のっぴきならない理由でなくなってしまい、マミーは夜逃げ、ミッツーも行方不明になり、B-hackは解散に追い込まれてしまいます。
しょっぺえ現実です。けれど、これが今の私たちが暮らす日本の現実なんだよなぁ、と見ていて切なくなりました。
女性ゆえのプレッシャー
アユムは、家業を継いで立派に毎日こんにゃく製造と販売の仕事をこなし、誰にも文句を言わる筋合いはない、と私は思います。けれども、世間は、27歳・未婚女性だというだけで、さまざまな文句をつけてくるのです。
「いいかげん結婚しないとお父さん引退できないよ?」
「あれこれ選んじゃだめだよ~?」
と法事でおじさんたちにねちねちと絡まれるアユム。その法事の席で、もうラップを諦めようとしていたアユムに向かって、ミッツーが魂のラップを披露します。
ファッキン 借金 街金 不渡り手形
娘の私に残したまま 逃げた母親どっかに消えた……
でも私 まだまだ諦めないから
このリリックが心に刺り、私は泣きました。法事の席でB-hackの3人、イック、トム、そして大きなだるまも入り乱れてラップの応酬が続くラストシーンは必見だと思います。『SR サイタマノラッパー2』、ぜひどうぞ。
■歯グキ露出狂/ テレビを持っていた頃も、観るのは朝の天気予報くらい、ということから推察されるように、あまりテレビとは良好な関係を築けていなかったが、地デジ化以降、それすらも放棄。テレビを所有しないまま、2年が過ぎた。2013年8月、仕事の為ようやくテレビを導入した。
連載【月9と眼鏡とリモコンと】