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マツコ・デラックスが日本社会に理解して貰いたい唯一のこと

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「マツコの部屋 アンタがいるから素直に笑えないのよ 編 」ポニーキャニオン

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会社には異性愛者しかいないのか?

 私は学生時代を日本ではない土地(仮にクプクプ島とします)で過ごしたのですが、社会人になり、日本の会社で働き始めた時、「会社にオープンなゲイがひとりもいない」ということは、素朴な驚きでした。会社には、たくさんの男の人がいました。常時、40~50人の男性が、わさわさしていました。その全員が、ひとり残らず、へテロセクシャル(異性愛者)だ、という想定のもとに会社は回っているのでした。

 クプクプ島の学校に通っていた時は、常に、クラスにひとりか2人は、ゲイやレズビアンがいました。なので、30人程の集団にいれば、セクシャルマイノリティの人はひとりか2人はいるのが普通、という感覚で暮らしていました。ゲイもいれば、レズビアンもいて、ヘテロもいる。それが世の中だと思っていました。

 それがいいとか悪いとか言いたいのではありません。単純に、当時の私にとっては、自分の働く会社の実態(へテロセクシャルしかいないということになっている)が、素朴な驚きだった、というだけです。

マツコ・デラックスが女装する理由

 現在の私の日常生活の中で、セクシャルマイノリティの方々と直接お会いする機会はほぼないに等しくなってしまいましたが、テレビでは、週一ペースで、マツコ・デラックスさんのお姿を拝見しています。

 マツコ・デラックスさんは3本の雑誌連載、そして、8本のテレビ・ラジオレギュラーを持つ人気コラムニストです。私はマツコさんのファンなのでNHKの『ハートネットTV 多様な“性”と生きている マツコ・デラックス “生きる”を語る(以下『ハートネットTV』)』も、もちろん拝見しました。

 『ハートネットTV』は、マツコ・デラックスさんが元NHKアナウンサーの加賀美幸子さんにインタビューを受ける形式の番組でした。

 男性として男性を愛するゲイであり、女性への憧れを女装することで表現してきたマツコさんは、自分の「性」をカテゴライズするのが非常に難しい、と語ります。

 小学生の頃から男の子が好きだったというマツコさんは、中学生になる頃には、自分は確実に異性愛者ではない、と確信していたそうです。女性になりたいと思ったことは、一度もないというマツコさんが女装しているのは、女性になりたいからではなく、加賀美さんも含めて、憧れている人が女性ばかりだからだそうです。男性は、マツコさんにとっては憧れではなく、性の対象でしかないそうです。

「こんな形態になったじゃないですか、自分が。成れの果てとしては、よくできた方だなと思うんですよね。ノープランで自分というものを自然に泳がせて、結果としてこの形になったんだったら、文句は言えないな、って」

 と、マツコさんは語ります。

 世間のオヤジたちに、「あなたは性同一性障害なの?」とズケズケ聞かれ、「いいえ、違います」とマツコさんが答えると、「だったら、なんでそんな格好しているの?」とさらに聞かれるそう。納得してもらえることは、なかなかないそうですが、「理解しようとはしてくれなくてもいい」と言い切ります。「人間は男か女って単純なものじゃないんだ、っていうことだけ理解してくれればいい」と、おっしゃいます。

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』