著者である久徳医師が〈母原病〉という造語を生み出した背景は、このような経緯があったと語られています。
・昭和30年頃、発展途上国型の病気(伝染病)が少なくなり、久徳医師含む小児科医たちは、この調子で進めば将来日本の子どもたちは極めて健康になるだろうと楽観していた。
・しかしちょうどその頃から、今まではなかった子どもの異常や病気が続出! それは、ミルク嫌い、食欲不振、低体温児(幼児で体温が36度台しかない)、言葉を話さない、立ちくらみしやすい、突然死(ポックリ死)、登校拒否、骨折しやすいなどといった症状だった。
・久徳医師の専門であるぜんそくの分野でも、治療しても悪化していくケースが増えた。
これらを長年分析し、次のような結論に至ったと語っています。
間接的な原因は、「都市化が進み、子どもの育つ環境が“自然さ”をなくしてしまった」こと。直接的な原因は、「親の育児感覚が狂い、間違った親子関係を続けてきたことによって、子どもの心身のたくましさが失われ、病気になった」こと。だから、よくわからない子どもの不調は、育児を担うべき母親のせい! というのです。
母親の育児本能が壊れている?
さらにこんなお説が続きます
・子どもが大人しいと「ありがたい」と感じるのは、親の愛情が壊れている証拠。昔はこのような親は少なかった。
・大人しい子どもをありがたいと放置して何の刺激もなく静かに育てていると、生まれて1~2週間頃からすでに自律神経が狂いやすくなり、くしゃみや鼻水の出やすい体質の子になる。「生き生きとした感覚が欠如するため、ぐず、のろまな子ども」になる。「最近多いぐずな子どもは、すでに生後5カ月頃からその傾向が作られているのです」。
・保育所に入れて急に風邪をひくようになるのも、保育者の人手不足による〈愛情飢餓〉が原因。「愛情飢餓による呼吸器の自律神経失調症」(原文ママ)である。
・夜尿症も、心身のたくましさ不足から! 年齢に応じた心身のたくましさが不足し、年齢よりも幼稚である、甘えやすいなどの傾向がある子どもが夜尿症なる。
・子どもの性格からもぜんそくになりやすい子を指摘できる。それは、無気力、甘えっ子、わがまま、不平不満が多い子。
・月経が狂うのも母原病、つまり親の育て方が原因。親によって体のバランスが不安定に作られてしまったから。
・子どもがよく熱を出す場合、週末や休日、あるいは旅行などの行事の前に多くないか、反省してみることが大切。そのような傾向があれば、主治医が休みの日に病気になったらどうしようという親の不安を子どもが感じ取っている証拠。母原病の萌芽が出始めていると診断しても間違いない。
医師の「ぜんそく」治療例
こんなお説を展開しながら、「母親の育児がいかにまずいか、母親の育児本能がいかに壊れてきているかを思わずにおられません!」と鼻息荒くたたみかける久徳医師。子どもはみ~んな活発にイキイキとし、母親はどっしり構えながらも心血注いで愛情深く、年長者のアドバイスもよく聞いて、昔ながらの生活を大切にしながら、母親の直感を働かせて子育てすればよし! ということらしいです。
昭和のおじいちゃんが語る精神論爆発という感じで、ノスタルジーすら感じさせます。ところで頻繁にでてくる「イキイキと」ってどう評価するのかが、ひたすら謎。久徳医師好みの、絵にかいたような昭和風のわんぱく小僧以外は、子どもらしくない! たくましさに欠ける! と診断されてしまいそう。