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鈴木亮平が大河撮影中に肉体美を封印して舞台で演じた「戦争の回避に尽力する」英雄役

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ほかには一路真輝、鈴木杏など実力派ぞろい。公式HP

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 俳優にとって、観客の前にライブでさらされる舞台への出演はハードなものですが、それは精神的な意味だけでなく、体力的にも大きな負担がかかるものです。人気があり旬の役者であればあるほど、出演する作品の規模や役の比重も当然大きくなりますが、2018年のNHK大河ドラマ「西郷どん」で主役を演じた鈴木亮平は、すでに撮影が始まっているこの時期に、舞台「トロイ戦争は起こらない」にも出演。ギリシャ神話を題材にした作品で、大河で扮する薩長同盟を主導し江戸無血開城を成し遂げた西郷隆盛ともオーバーラップする、戦争の回避に尽力する主人公エクトールを演じています。

 フランスの劇作家のジャン・ジロドゥによる「トロイ戦争は起こらない」は、ホメロスの叙事詩「イリアス」に描かれている、紀元前1200年頃に起こったといわれるトロイ戦争の開戦前日を描いた物語です。ジロドゥは第一次世界大戦に従軍経験のある外交官で、初演は第二次世界大戦開戦がせまった1935年。ギリシャ神話をモチーフにしていますが、執筆当時のヨーロッパ情勢を重ねて、世界が戦争へとなだれこむ様子を描いています。日本では1957年に、まだ学生演劇集団だった頃の劇団四季により「トロイ戦争は起こらないだろう」の名前で初演されています。

美女をめぐって開戦か?

 トロイ戦争は、エクトールの弟であるトロイの王子パリスが、女神からの褒美としてギリシャの王妃である絶世の美女エレーヌ(=一般的にはギリシャ語読みのヘレネーの名で知られています)を与えられたことから、彼女を取り合う二国間のいさかいに端を発しています。エレーヌを返したくないトロイと、取り返すことに国の威信をかけているギリシャとの間には開戦の機運が高まっていますが、従軍から戻ってきたばかりの英雄で王子のエクトールは戦いに疲弊しており、阻止のためエレーヌを返すことを主張します。

 鈴木といえば、モデル活動経験もある恵まれた体形を生かし、役柄にあった大幅な体重の増減など、ボディメイクが話題になることも多い俳優です。16年に主演した舞台「ライ王のテラス」では、ムキムキの筋肉をおしげもなく披露していましたが、本作では軍服姿で、肉体美は封印。それでも、胸や肩周りの筋肉が衣裳を押し上げていて、百戦錬磨の軍人である説得力がありました。

 エクトールが戦争したくない理由には、戦場での悲惨な経験とともに、妻アンドロマック(鈴木杏)のおなかに子どもができたこともありました。ギリシャからやってきた使者オデュッセウス(谷田歩)との一対一の会談では、老獪な知者であるオデュッセウスに食い下がる姿に知性と熱さがにじみ、緊迫感で劇場内の空気がぴりぴりするほど。

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

@westzawa1121