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鈴木亮平が大河撮影中に肉体美を封印して舞台で演じた「戦争の回避に尽力する」英雄役

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 余談ですが、舞台で俳優を目にすると、強い照明によってキラキラする瞳がたいてい印象的なものですが、塩顔のせいか鈴木亮平は、目がほとんど目立ちませんでした。替わりに印象的だったのは、光を反射するかのように白く光る歯。エクトールが理性と知性のある男性に見えたのは、この歯の魅力が大きいように感じます。

 閑話休題。元タカラヅカトップスターの一路真輝が演じるエレーヌは、作品によってはただ神と男性の行いに流されるままの意志のない女性として描かれますが、今作では運命や未来を見ることができる能力のある人物として描写されています。運命に逆らわないのは、変わることがないとわかっているから。夫を深く愛し、ともに戦争を阻止したいアンドロマックにヒステリックに帰国を要請され、「そんなに単純じゃない。それにあなた、めんどくさい」と淡々と言い放ちますが、並外れた美しさであるがうえの孤独の描写は、とても魅力的です。

 作家のジロドゥは、女性の地位と権利問題にも関心があったためか、「トロイ戦争は起こらない」では、戦場に出る男性だけでなく、その後ろの女性たちのなかに、心を惹かれるセリフを数多く存在させています。戦争へと繋がるメカニズムと、そこにある“男”の理論への、鋭い指摘が読み取れます。

「男の愚かさ」は永遠のテーマ

 エクトールとパリスの母である王妃エキューブは、エレーヌの美(だけ)をたたえる男性に対し、「あなた方には女を敬う気持ちがないんですよ、愛国心もね。どの民族も自国の女で象徴するんです、あなたたちだけですよ、よその国の女に(それを)やらせるのは」と言い放ちます。女は男のエネルギーの源であり勇気に対する報奨、女がそれを望もうと望むまいと、と話す男性に対して、女ひとりのために戦争したいなんて勃起障害の愛し方ね、という返答は、戦争に対する嫌悪とともに、男性の愚かさへの諦念もうかがえるのでは。

 当時、会戦状況にあるかどうかは門の開閉で示されるため、エクトールの「門を閉めろ!」というセリフは戦争をしないという意思表示であるのですが、先のエキューブの発言には、戦争と男性ともに、意に沿わない者の“内部”への侵入を許さないという、オーバーラップさえ感じます。

 ギリシャ劇の世界観を借りながらも、テーマは非常に現代的。トロイ戦争の結末は、男性はみな死に、女性は奴隷となり――。エクトールも西郷隆盛もいない現代日本で「イリアス」の結末を迎えないために、他者を尊重することの大切さが示唆されているようです。

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

@westzawa1121