フジテレビ“月9”枠の新ドラマ『民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?~』が、現実の衆議院総選挙の影響で予定より一週間遅れてスタートした。放送時間を15分拡大した初回の平均視聴率は9.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)と振るわず。特に前クール『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON』が最低でも13.4%、最高16.4%と好調だっただけに落差が目立ってしまう。
この日フジテレビでは19時から『プロ野球クライマックスシリーズ・ファイナルステージ 広島×横浜DeNA』を中継、試合が延長となったためドラマは30分遅れでの放送開始となったが、野球ファンがそのまま継続視聴すれば高視聴率を見込めないことはなかった。午後9時26分、DeNAの逆転勝ちが決まった場面で16.6%の瞬間最高視聴率を得ていたからだ。
連続ドラマは初回こそ「試しに見てみよう」と合わせる視聴者が多く、徐々に視聴率が低下するパターンが常だが、逆に評判が評判を呼んで右肩上がりを記録するケースもなくはない。『民衆の敵』は後者になれるだろうか。
お話としては、篠原涼子が理不尽なルールに喧嘩をふっかけ、味方を増やしていく定番モノ。篠原はもう何年こうした役柄を演じ続けてきたのか思わず数えてしまう。とある地方都市で市議会議員選挙がおこなわれ、何者でもない中卒パート主婦だった佐藤智子(篠原)が新人議員として初当選を果たし、議会で「こんな世の中はおかしい」と訴えかけていくストーリーで、初回は立候補~当選までが描かれた。
智子はコールセンターで時給950円のパートタイマーで働く40歳の女性。智子にベタ惚れで優しく家庭的だが収入の少ない夫(田中圭)と可愛い息子と三人で暮らしているが、夫婦共働きでも稼ぎが少なく生活は楽ではなく、貯金は50万円ほど。息子を預ける保育園はキツイ坂道をのぼったところにあるが、電動自転車が買えない。住宅も食卓も質素で、オカズは野菜炒めと卵焼き。夫婦の晩酌はビールではなく発泡酒を愛飲。ただでさえカツカツの生活なのに、夫婦同時に職を失ってしまった。
新しく職を探そうにも、学歴も資格もろくな職歴も持たない夫婦は途方にくれる。そんな折、市議会議員の選挙がおこなわれると知る。枠は10議席。智子の住む市の議員報酬は950万円でしかも当選確率は8割だと聞き、「正社員になるよりも議員になるほうが簡単そうだ」と発想した智子は、なけなしの預金をすべて引き出して供託金にし、立候補。同じ保育園に子供を預けるシングルマザーの石田ゆり子ほか仕事のデキる(しかし育児優先でマミートラックにはまっている)ママ友たちの協力を得て、智子はなんとか当選したのだった。
他の当選者は、政治家一族の次男だがワケありの臭いがする高橋一生、元グラビアアイドルの前田敦子、農家の跡取り・トレンディエンジェル斎藤司など。市長役は余貴美子で、議会を牛耳るドン役に古田新太が配されている。
“まっすぐでアツい”人柄の智子が演説で人々の心を動かし協力者を増やしていく流れは良くも悪くもオーソドックスで、時代背景を考えるとやや説得力に欠ける。智子の両親はいわゆる“だらしがない人たち”で、智子は高校を中退したため学歴は中卒、怠け者のつもりはないのだが人並みに稼げない。愛する夫と息子に囲まれた今の暮らしは幸せだが、収入が増える見込みは一切なく、未来に不安が募る。世帯年収はおそらく250万にも届かないだろう。息子は卵焼きをステーキだと思って食べている。智子は発泡酒は買えるがステーキ肉は買えない。
「ずーっとふざけんなって思ってたんです。だっておかしくないですか。生まれた時点で自分の人生決まっちゃうなんておかしくないですか。時給950円の生活を知らない奴が生活を語るな。誰にだってステーキ食べれる権利あるでしょう。だから幸せなフリはやめて、本当の本当に幸せになりましょうよ!」(智子の選挙演説)
こうした街頭演説で主婦層の賛同を得る智子だが、彼女はそれまで一度も選挙で投票したことがなかった。最初は報酬目当てだったが、選挙を通じて意識が変わり、議会での経験によって自身も成長しながら市政を変えていくのだろう。コメディタッチの社会派ドラマで、サクセスストーリーに仕立て上げられている。とりわけ面白いと唸るポイントもないが、退屈すぎるわけでもなく、無難な印象は否めない。
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