10月30日に放送された『民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?』(フジテレビ系)の第二話視聴率は、7.1%だった(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。初回9.0%からさらに下げており、同枠の最低視聴率である5.0%(『突然ですが、明日結婚します』2017年1~3月放送)に迫りかねない。
月9枠はフジの看板であり高視聴率が厳命されている……というのも今は昔。あくまで視聴率という数字だけで言えば、今クールのフジドラマで二桁に達している作品はない。それでも徐々にクチコミで面白さが広まれば、数字に反映されていく可能性もあるが、『民衆の敵』はどうか。
初回で見事、市議会議員選挙に当選した佐藤智子(篠原涼子)。中卒パート主婦で政治のド素人だが、「おかしいことにはおかしいと言う」まっすぐな性格で、人望を集める。おどけたキャラなので、軽い気持ちで見ればよいのだがが、テーマが「政治」や「子育て」なだけに、視聴者もつい真面目になってしまうのだろうか。しかし真面目に見れば、ツッコミどころが出てしまう。
無知でがさつな智子や身勝手な要求を押し付けるママ友の描き方には「主婦をバカにしすぎ」とプンスカしたくなるだろうし、宴席の刺身をお土産にしたら衛生的にまずいとか、賄賂として贈られたマノロブラニクの靴を履いていいのかとか、高橋一生はサービスシーンのためとはいえデリヘルを呼びすぎであるとか。高橋一生や、智子の夫で専業主夫になった田中圭が大変“優しい男”であり、これもまた女性の願望を投影しているつもりなのか、とか。
しかし最後には智子の弁舌で「スカッと」させてくれるのがこの作品の醍醐味なのだろう。智子は市議会で居眠りをしていた先輩議員(大澄賢也)を叩き起こし、騒動になる。智子が恥をかかせたのは最大派閥である犬崎(古田新太)派の幹部であり、謝罪の必要があるという。そんなヤクザのような理屈に智子は従わない。なぜ犬崎を敵に回してはならないのか、懇切丁寧な説明を受けて検討したうえで、議会の場できっぱり「議会で寝るほうが悪い。悪いものは悪い」と言う。それどころか、犬崎批判まで展開した(あの篠原特有の舌ったらずな喋り方で)。
智子「(謝罪するのは)どうしよっかなあと思ったんだけどぉ、犬崎さんに逆らうと入りたい委員会に入れなくなっちゃうとか」
野次「謝罪しろー」
智子「犬崎さん、やっぱり謝らなきゃ(入りたい)教育こども委員会に入れてもらえませんかね? だっておかしくないですか? お前が入りたい委員会に入れてやるから嘘をつけなんて。だっておかしいでしょ、嘘をついたほうが得するなんて。嘘をついたほうが得するような社会であたし子育てしたくない」
こうした智子の答弁は、議会で受け入れられたようだ。犬崎も智子にあからさまな敵意を向けはしない(犬というよりたぬきなので、どのような策略を練っているかは現時点では不明だが)。少なくともそれまで何となく見ていた視聴者を「スカッと」させる仕組みにはなっている。
ただ、いかんせん……最後に「スカッと」するまでが、あまりにも長い。素人政治家たちのグダグダ、スケールの小さい怒りや悪巧み、高橋一生の半裸に時間を割きすぎている印象だ。そのうえ、最終的に智子が「フツーそんなこと言わないだろ!」な破天荒弁舌で人々の心を動かす演出は、まるでキムタクドラマのそれである。いや、キムタクドラマであれば最初から主人公が異能の存在であるうえ、努力家という設定もお約束だからこその破天荒メッセージが活きたが、智子はそうではない。だからいっそう軽さが際立ってしまう。
また、気楽に見られるのだからテレビをつけておいてもいいじゃないか……という時勢でもない。わざわざ見ようとしなければテレビはつかない。テレビ以外の在宅娯楽はいくらでもある。その点でいえば、『民衆の敵』は、見たくなるフックがだいぶ弱い。影を負った色男の裸×石田ゆり子×庶民の味方演出で、引っ張れるものだろうか。大胆な展開が用意されていることを期待したい。
(犬咲マコト)