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『下北沢ダイハード』でも注目! 小劇場の名手が、ふたつの劇場で描く「当事者の悲劇と、部外者の悲劇」

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舞台を行き来する瞬間に見えるもの。公式HP

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 自宅にいながらでも楽しむことができる映像作品に比べ、舞台は公演情報を目にする機会自体もけっして多くはありませんが、実は、東京で上演される舞台の本数は、世界でも有数の多さです。その大半を占めるのが、観客数のキャパシティが百人程度の劇場で行われている、いわゆる「小劇場」。劇場の規模自体よりも、何でもありで雑多な、演劇のひとつのジャンルを意味しています。

 堺雅人や上川隆也などの主演級俳優や、芥川賞受賞作家の劇作家、本谷有希子なども、元は小劇場出身の演劇人。時には、すでに名前の売れている実力者俳優が、脚本にほれ込んでひっそりと出演しているなんてこともよくあります。

 今夏、テレビ東京系列で放送され人気を博した深夜ドラマ『下北沢ダイハード』は、そんな小劇場で活躍中の、11人の劇作家が書き下ろしを担当しました。第6話「未来から来た男」の脚本は、劇団「ままごと」を主宰する柴幸男

親友を思って流す涙

 同話で映画『ターミネーター』をモチーフに、決められた未来を阻止するために何度も同じ瞬間を繰り返す男を描いた柴は、物語を俯瞰(ふかん)で描くことに長けた作家です。10月中旬、その柴の作・演出作「わたしが悲しくないのはあなたが遠いから」が池袋・東京芸術劇場のシアターイーストとシアターウエストで上演されました。

 同作は、台湾の音楽クリエーターとの共同制作で、演劇フェスティバル「東京芸術祭2017」の一環として上演されました。隣り合った2つの劇場で、舞台上に設置された扉から俳優が行き来しながら同じ脚本を演じています。

 ある少女が生涯の間に見聞きした大小さまざまな悲劇が、彼女のモノローグで語られます。少女には親友がいて、生まれた病室も家も小学校のクラスも隣同士でしたが、彼女は転校してしまいます。それからも、少女が進学や結婚などで行動範囲が広がるにつれ遠くの街や国へ引っ越し、再会することは叶いませんが、親友はいつも自分は少女の“隣”にいると手紙や電話で励ましてくれます。

 少女は、親友が転校する時、彼女のクラスで飼育していたウサギが殺された時、その気持ちを思って泣きます。しかし、親友が住む街が大地震に見舞われた時、安否を気遣って出したいはずの手紙になんと書けばいいのか悩み、送ることはできないまま。親友が住む国で爆発事故が起きた時は、「自分のいるところでなくてよかった」「彼女のもとへ駆けつけたい」という気持ちで揺れ動き、もう他人のために涙が出ない自分に気づきます。

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

@westzawa1121