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過激な自然派育児は誰のため? 自己肯定のレベル上げに執心、医療全否定で子供の健康を守れるか

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母を狂わす助産院の罪。Photo by Jason Lander from Flickr

 人がトンデモ沼にハマった時に困るのは、簡単には縁を切ることのできない家族たち。その困惑や衝撃を体験者に語ってもらうという新シリーズ「家族がトンデモになりまして」。前回の続編として、義妹が〈ウルトラヘビー級の自然派ママ〉になったという、M子さんの体験談をお届けしていきましょう。

▼前篇:異臭がする子供、ワクチン拒否…義妹が「自然派ママ」になりまして

 M子さんは現在1歳の子供を育てている20代主婦。約半年ほど先に出産した義妹がママ友的存在となり、さまざまなアドバイスがLINEで送られてくるように。ところがその内容は、〈粉ミルクは害でしかない。絶対母乳〉〈1歳までは母乳以外必要ない〉〈界面活性剤が入っているからシャンプーや洗剤は使ってはいけない〉〈冷えをとるため、入浴は最低1時間〉〈食材は国産限定(でも福島産は放射能が怖いから買わない)〉というような過激なもので、M子さんを困惑させました。

 助産院で教えてもらったと義妹が語る自然派育児の押し付けにより、M子さんは心身ともに疲弊。ここまでが、前回ご紹介したエピソードです。もともと占いやパワーストーンなどスピリチュアル的なものが好きだったとはいえ、義妹がなぜそこまで過激な方向に走ったのか? 次のエピソードから、その背景がぼんやりと浮かびあがってきます。

子育てが「自己肯定」の手段に

 義妹は、長男であるM子さんの夫と妹に挟まれた、いわゆる〈真ん中っ子〉。義母(義妹にとっての実母)は、伝承や先祖を重要視する宗教的な団体に所属し、オーガニック、無農薬、健康食品が大好物で、義妹の過激な育児法にも「自然派、いいよね!」くらいのライトなノリで賛同しているそう。

M子さん(以下、M)「お義母さんは毎月マルチで有名な某健康食品に数十万つぎ込んでいるので、好きなものに大金を使うことに抵抗がないようです。義妹はお義母さんの活動に同行して、その仲間へ自然派グッズを販売していたりするので、高額な食費も賄うことができているんだとか」

 これはもしやピーナッツ親子(共依存関係の親子)!? と思いきや、話を聞くとどうもそれより、義妹が「3人兄妹の中で、一番愛されていない」という思いに縛られていることが大きそうでした。

M「助産院の影響なのか、義妹のトークは何かにつけて〈愛〉と言う言葉がよく出てくるんですけど、『私は親に愛されていないから、自分で自分を愛すしかない』『自分で自分を肯定してあげないと何もできない』というようなメールもわんさか届きます。義母は健康食品ですが、義妹はアロマ系のマルチに何百万円もつぎ込んでいるようです。そのアロマをかぎながら、『これはインナーチャイルドを呼び覚ます香りで、昔の自分を肯定してあげている』とか語るんです。その姿も、なんだか怖くて。でも夫や義父いわく、虐待はもちろんのこと、兄弟間で差をつけられたとか放置されたとか冷たくされたとかそんな事実は見当たらないそうです。自分で物語を作り、悲劇のヒロインになってしまっているような感じもします」

 M子さんの夫と一番下の妹はマルチ関連の商品を毛嫌いし、義母がのめりこんでいる会社の食品が食卓へ上がると無言で捨てるそう。そんななか、義妹さんだけは唯一母親の味方をして、「兄弟の中では、自分が一番の母親の理解者」とM子さんへ誇らしげに語るのだとか。

 事実はどうであれ、義妹が母親の愛を求めていて、かつ何かしらの生きづらさを抱えていたのは確かなのでしょう。その気持ちを過剰に膨らませるブースターとなったのが、おそらく助産院のインナーチャイルドワークとやら。ネガティブな気持ちを刺激するだけ刺激して、その後は野放しされたことで、義妹の被害妄想や責任転嫁、ヒロイズムが暴走したような印象を受けました。

 そして義妹の感情を癒す「救いの道」として刷り込まれたのが、一般社会から遮断されるレベルの自然派育児。前向きで健全な子育てどころか、全力で後ろ向き、しかも子供の健康すら怪しい状態になってしまっているのですから、120%呪いではないでしょうか。

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山田ノジル

自然派、エコ、オーガニック、ホリスティック、○○セラピー、お話会。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のないトンデモ健康法をウォッチング中。当サイトmessyの連載「スピリチュアル百鬼夜行」を元にした書籍を、来春発行予定。

twitter:@YamadaNojiru

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