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子宮内膜症持ちの女性が考える「いつか子宮を摘出するかもしれない日」

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摘出を控えた子宮にちんぽを届けたくて突っ走ってきた女性が、ついに実感できた愛の画像1

イラスト/大和彩

 おう、また会えたな! 嬉しいよ、また俺の話しを聞きに来てくれたのかい。オーライ、ならばまずは乾杯といこう……ほい、ホットミルクだ、リラックスできるからな。

 俺か? 俺なら元気でやってる。気分は快適だよ。こんなに調子がいいのはいつぶりだろう。ひょっとしたらこんなに状態がよかったことは今までの子宮生で一度もなかったかもしれないな。

 まあ俺のことはさておき、夢子の話だろう? せっかくまた会えたんだ、ゆっくりしていってくれよ。

*   *   *

「子宮摘出」、あなたたちはこの言葉にどんな印象を抱いているだろうか。世の中の大多数の人間と同じく、極重(ごくしげ)夢子にとってもこの言葉は特別な意味を孕んでいた。しかしそれは一般的に抱かれる「怖い」「不幸」といったイメージとは違い、「解放」を意味するものだった。

 遡ること10数年前、夢子は持病の子宮内膜症の進行を遅らせるために低用量ホルモン剤、いわゆるピルの服用を開始した。断っておくが、ピルを飲んでも子宮内膜症は完治しない。

 食べ物は冷蔵庫に入れておけば数日はもつが、いつかはダメになるだろ? それと同じだ。ピルにできるのは、内膜症の進行スピードを鈍らせることだけだ。時が経てば、子宮内膜症の症状はゆっくりでも確実に進んでいく。子宮内膜症は女性が閉経するまで完治しない病気だ。

治らない病気、子宮内膜症

 子宮内膜症が進行してしまい生活がどうにもならなくなっても、今の医療では閉経まで完治しない。

 内膜症女性の多くは症状がひどくなってしまう前に閉経を迎え、結果的に症状から解放されるだろう。だが、ピルで抑えつづけたのに、閉経よりも随分前に内膜症の症状がどうにもならないほど進んでしまったら?

 治療の一環として、子宮摘出という方法もある。

 あなたがかかっている医師は、「この薬を使えば子宮内膜症は『治る』」と言うかもしれない。鍼灸師や整体師の中にも、次のように言う者がいるかもしれない。

「ウチに通って内膜症が『治った』人がいるよ」
「内膜症なんか子供を産めば『治っ』ちゃうよ」

 夢子はそんな医師・鍼灸師・整体師に何人も出会ってきたが、そのたびにこう理解してきたーー「『治る』よ(『完治』するかどうかは知らないけど)」って言ってるんだよね。

最終手段としての子宮全摘出

「子宮内膜症疑い」と診断された時から、夢子は完治しないことを知っていた。『あなたを守る子宮内膜症の本』(日本子宮内膜症協会・著)にこのように書いてあったからだ。

「現在の医学と医療の力では、子宮内膜症が発症すれば、閉経まで完治することはないという、世界的事実を、こころえていたい」(P.11

 本書にはアメリカの内膜症患者団体「EA」の以下の言葉も紹介されていた。

Currently, there is no cure for endometriosis……Recurrences after treatment are common. When all else fails, hysterectomy with removal of the ovaries is commonly suggested.
(現時点では、子宮内膜症は治らない……治療後の再発はよくある。最終的な手段としては、卵巣と子宮の全摘出が提案される)

 英語では「treatment 治療」と「cure 治癒」という2つの言葉がはっきり使い分けられていた。つまり治療はできても、治癒、完治はしないということだ。

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』