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子宮摘出手術、決定! 身寄りナシの女性が病院を見つける苦難と術後の不安要素

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摘出を控えた子宮にちんぽを届けたくて突っ走ってきた女性が、ついに実感できた愛の画像1

イラスト/大和彩

 前回、子宮摘出を決意した夢子だが、病院を見つけて手術の予約を取る段階まで、実に半年かかった。我々はピルの処方と手術を求めて合計5軒の大学病院・総合病院を訪ねた。つらい半年であった。今回はその経緯を話そう。

 とある大学病院では、死ぬ病気ではないのだから子宮摘出はできないと断られた。医師には、ひとり暮らしであること、内膜症の痛みがひどく、体の衛生状態を保つことを含め食事など基本的な生活すら成り立たないこと。今の生活を何とか改善したいこと、もっと働きたいこと。寝たきりのままでただ存在するのではなく、人生をよりよく生きたいこと。それらを話した上で、痛みの大きな原因である子宮を摘出したいと話した。

「『すでに子供がいるからいいかなと思って子宮を取ったけど、その後、再婚したらやっぱりまた子供が欲しくなったから何とかしてください』といいに来た人が過去にいました。摘出しないほうがいいですよ、まだ若いのだから」

と医師は応じた。この発言には震えるような屈辱を感じたが、夢子はそれを一旦わきに置き、

「でしたら『私は今後子供はいりませんし、子宮を戻してくれと言ったり、手術後に病院を訴えるなど絶対しません』という誓約書を書きますよ」

と提案してみた。

「手術したからといって楽になるとは限らないんですよ。手術はリスクが大きいんです。リスクとベネフィット(利益)のバランスで、うちは手術適用を判断するんです」

 いい聞かせるように医師がいう。これには夢子は正反対の考えだった。

「リスクは重々承知しています。手術中に死んでも別に構いません、私はすでに生きたまま死んでいるようなものですから。リスクを冒してでもベネフィットにあやかりたいから手術したいのです。なんなら『手術中死んでも構いません』という誓約書だって書きます」

手術できないなら、せめて…

 渾身の訴えだったが医師は目を逸らしただけだった。手術がだめならピルを処方してくださいと頼んでもみたが、ばっさり断られた。

「40歳以上の人にピルは処方しません。ピルもリスクがあるんです。それよりMという去年認可された薬があるのでそれを試してみませんか」

 ピルのリスク-ベネフィットバランスについても、夢子は手術と同じ考えだから使いたいのである。そしてMは、散々だったDと同じ成分だ。世界的にも内膜症にMが効果的というエビデンスはない。進行した内膜症患者にMを処方しようとするなど日本だけの奇妙な風習であろう。

 そこまでしてなぜピルを忌み嫌うのか。ピルで血栓ができて死ぬかもしれないリスクなら、夢子は納得できる。だがこのひっ迫した状態のなか、自分でMの人体実験をするリスクを負うことに合理性は見いだせないし、Dと同じ成分なのだから結果は想像がつく。夢子は以上の理由をオブラートにくるんで説明し、Mを断った。

「じゃあうちでは何もできませんね。他の病院に行ってください」

八方塞がりの子宮内膜症患者

 そこで鎮痛剤の処方をお願いした。他の病院を探すなら動かないとならない。その頃の夢子は数時間おきに痛み止め、しかも飲み薬ではなく強力な座薬を入れないと動けなかった。手術とピルに関してNOはNOだからしょうがない、そこは受け入れる。けれど、医師は鎮痛剤すら1日1個、1週間ぶんしか処方してはくれなかった。使いすぎちゃダメですよ、ということらしい……ははっ、これは何かのジョークか?

 内膜症の痛みの規模がわかっているとは思えねえ。将来、子供が欲しくなるかもしれない可能性を指摘する時点で、夢子の「基本的な生活ができない」という訴えも理解されてねえと判断するしかないなあ。

 今の夢子に結婚したり子供のお世話をする能力はないんだよ。こいつは自分のトイレに行くのだって苦労してんだ。だから手術したいっていってんだ。手術もピルも鎮痛剤もNGでは、八方塞がりだ。子宮内膜症患者にどうしろというのだろう?

 手持ちの痛み止めも残り少なくなり病院がまだ決まっていないこの段階は、不安この上なかった。

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』