胸やお尻を触ったりすることだけが痴漢ではありません。最近では、満員電車の中で不可抗力を装った悪質な痴漢が増えているそうですが、痴漢の中には“触らない痴漢”も存在します。
私は、接触系の痴漢被害に遭ったことはありませんが、電車の中でオナニーのオカズにされた経験があります。そこに身体的な接触はないものの、公然の場で性器を露出することも痴漢のひとつですし、当然、公然わいせつ罪にあたります。
私と男性“しか”いない車両。向けられる視線がなんだか怖かった
その被害に遭ったのは、高校生のころでした。季節は春くらいだったと思います(春って変な人が増えるってよく聞きますよね……)。
その日、学校は午前中に終わったため、昼過ぎに電車に乗り、乗換駅に到着しました。私は関東地方でも田舎寄りの生まれで、自宅から一番近い電車は、朝のピーク時でも30分に1本というマイナー路線でした。しかもお昼時は1時間に1本! 早引きの日は、長時間ホームで電車を待つ必要がありました。
その駅は始発駅なので、ホームにはすでに出発待ちの電車がドアを開けた状態で停まっていました。そこで約1時間、出発を待つことに。ホームには同じ高校の生徒が何人かいましたが、彼らを避けて(一緒に帰るのがなんだか嫌だったので)、閑散とした車両を選んで乗りました。
昼時ということもあって、その車両は私しかいない状態です。イヤホンで音楽を聞きながら携帯をイジっていると、通路を挟んだ向こう側の席に中年くらいの男性が座りました。ほとんどの席が空いているのに、わざわざ私の真正面の席を選んで座ったことにやや違和感を覚えましたが、気にせず携帯の画面を見ていました。
最初は「なんだか汚らしいおじさんだなぁ」くらいにしか思っていなかったのですが、次第にその男性からの視線を感じるようになりました。本能的に目を合わせちゃいけない気がする、と思ってずっと携帯の画面を見ていました。
この時点でそこそこ怖かったのですが、なぜか逃げることはできませんでした。逆に動いたら何かされそうだと思って、とことんその男性の視線を無視するしかできませんでした。
オナニーのオカズにされた
聞いている音楽の音量を上げて恐怖を和らげるべきか、何かされそうになったらすぐ逃げるために音量を下げるべきか悩んでいると、男性が何かをし始めました。男性を視界からそらしてはいるものの、男性が自分のモノを股のチャックから出し、手で上下にしごきだしたのがわかりました。この時に「オナニーのオカズにされてる」と気づき、閉じていた脚をさらに閉じました。
そんな状態でも、怖くてその場から立ち去ることができませんでした。でも、日和ったら襲われるかもしれないと思い、携帯の画面をひたすら注視して、その男性の行為を無視し続けました。その行動は、以前母に言われた「変態は相手の反応を見て楽しんでいるんだよ、キャーって言ったら逆に喜んじゃうんだよ」という言葉のせいだったのかもしれません。
「怖い、怖い、怖い」と思っていると、男性は車両の床に射精しました。内心はハラハラでしたが、それでも平然を装っていたので(自分の中では)、男性はなんだかバツが悪そうに靴で精液を床にこすってうやむやにしていました。
しばらくすると、男性は立ち上がってその場を去っていきました――でも去り際、ズボンのチャックから出したイチモツを露出したまま、目の前を通り過ぎました。私に見せつけようとしたのでしょうか(私は携帯を見ていたので、イチモツはちゃんとは見ていません)。
身体的な接触はまったくなかったものの、めちゃくちゃ怖かったのは数年経っても覚えています。本来であれば、駅員さんにこのことを伝えるべきでしたが、男性が去っても、まだ恐怖が残りしばらくその場から動けませんでした。結局、無事だったからいいか……と自己完結してしまいました。
あの時、どうするのが正解だったのか
先日、若槻千夏さん(33)がテレビで痴漢を自ら捕まえたことを武勇伝のように語っていたのですが、実際痴漢の被害に遭った時、恐怖で身体が動きません。私の場合はほぼ無人の密室だったのも関係していますが、“そういうこと”をする人は、正直何をしでかすかわかりませんから、最悪、突然殴ってきたり殺されることだってないとは言えません。そう考えれば、変な男と一対一になってしまった時点でもう詰んでしまっています。
電車の中で自慰をしていた男性は、野外でのオナニーに特別な興奮を感じているのか、女性に自慰を見せつける趣味があるのか、ただ単に露出狂なのか、女子高生が性的対象だったのかは不明ですが、それでも電車という公共の場での自慰は極めて悪質です。それは被害者が成人であってもです。
あれから数年経った今も、あの時どうするのが正解だったのか、たまに考えることがあります。少なくとも、被害を駅員さんなどに伝えなかったのは後悔しています。後日でも、被害届けを出して、この路線にあの痴漢が出ることを周知させることが、私にできる唯一のことだったのかもしれません。