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子宮摘出手術をひとりで受けて、ひとりで退院する。解決すべき課題と医療の進歩

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 そう考えるも、心配事は休むことなく心に去来する。

 夢子が住んでいるのはアパートの2階だ。エレベータなどなく、部屋へと続く急勾配の階段は暗く狭い。コンクリートを流し込んだだけのそれは、俺たちには凶器でしかない代物だ。体調不良だとなんでもない段差でもつまづくものだ。それは夢子も多々経験しているし、すでにこの階段からも何度か落っこちている。今のところ骨折せずに済んでいるので自身の骨密度に感謝する日々だが、手術後はどうだろう? 退院後の落ちた筋力で、この違法建築ぎりぎりの階段を自力で登ることは果たして可能なのか。

 夢子は身震いした。やつの脳裏では今、階段から落ちたまま動けず冷たいコンクリートに横たわる蒼白な女と、地面にゆっくり広がる紅色のコントラストの見事な動画が絶賛上映中だ。それが終わると別アングルでもう一回、お次はばっちりスローモーションで……などと動画はさまざまなバリエーションで展開していく。

「親族がいない問題」をどうするか

 脳内ムービーで現実逃避しても、重大な問題がまだ残っている。先ほども言ったように、夢子には頼れる者はいない。そもそもそんな人間でも手術・入院させてもらえるのだろうか?

 支配的かつ虐待的な両親とは物理的・精神的な距離を置かないかぎり、自分の生活が崩壊してしまうので連絡を絶っている。入院のために彼らと再び繋がりを持つつもりはない。

 手術中の緊急事態に備え、親族などが病院で待機する慣習があることを、夢子は漫画で読んで知っていた。やつは人生に役立つ知識はだいたい漫画から得ている。もし「手術中待機係」が絶対必要ならば、便利屋さんにでもお願いするしかないと思った。相場は1時間6000円。手術中ずっと待機してもらうとなると高額になるから、本気でイヤだが仕方ない。

「待機係」案件はこのようにクリアできたとしても、さらに気がかりなのが「親族による同意書サイン」問題だった。

 以前読んだ漫画『グーグーだって猫である』(大島由美子)には、大きな女性科疾患を患った未婚の主人公が入院と手術を経た後、治療を続けながら営む日常生活が描かれている。90年代に描かれた本作では、主人公の手術の際、遠くに住む親戚に出向いてもらって同意のサインをしてもらわなければならなかった。「この制度はなんとかならないのか」と書いてあったと記憶している。

入院中のQOLは心配なさそう!

 入院先が決まってしまえば、着るものやコインランドリーの値段、同意書サインの件などは、病院に聞けば済む。パジャマ等々の件でハゲそうなほど気をもんでいた夢子の精神的負担も、少しは軽くなるだろう。

 問い合わせの結果、病院には寝間着とタオルのレンタル制度があることが判明した。レンタルは平日のみ、1日数百円とのこと。夢子の入院期間のうち、平日は10日ほどだ。毎日レンタルしても合計50006000円、前開きのパジャマを1着買うより安いではないか。これなら洗濯する元気がなくても大丈夫、コインランドリー代まで浮く! すばらしい制度だ!

 しかも写真で見ると、パジャマの前身ごろは甚平のように二重になっている。これならブラなしでも乳首は透けない! 前開きのブラも買わなくて済む!

 きっと自分だけではなく、これまでに入院した多くの人たちも、パジャマやブラ、洗濯問題に頭を悩ませてきたのだろう。そんな人々が病院に意見を言ってくれたから、このように便利な制度が今は存在するのだ。先人のみなさん、ありがとう。入院前の不安を抱えていたのは、私ひとりじゃなかった、そう思うと、少し心強かった。

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』