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LGBTやHIVを描くミュージカル『RENT』の「今日」を大切に生きるというメッセージ

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 ロジャーはミミに惹かれつつも、自身のHIV感染が重荷となり新しい恋への踏み出す勇気をなかなか持つことができません。ミミは余命を意識するからこそ「今日という日は大切に生きたい」「重荷ならわけあえる」と訴え、一度は気持ちを通わせ合うものの、ロジャーの揺れる態度に傷つき、断とうとしたドラッグに再度手を出してしまいます。

 一方、コリンズとエンジェルは強い愛で結ばれたものの、エンジェルがエイズを発症。コリンズの腕の中で亡くなります。

 RENTという題名には「借りる」「家賃」の他に、「引き裂く(rend)」の現在完了形という意味も込められています。同時代のリアルな痛みやつらさを受け入れ乗り越えていく登場人物たちの姿は、「等身大なミュージカル」として特に若年層を惹きつけ、「RENTヘッズ」と呼ばれる熱狂的なファンを数多く生み出しました。

 ミュージカルの最大の魅力である音楽の圧倒性も、人気の理由です。ロックを中心に、ブルースやゴスペル、タンゴなどジャンルが非常に多彩で、歌詞の率直さもとても斬新。メインテーマ曲「Season of Love」は日本でもコーヒー飲料のCMソングに起用され、耳にしたことのある人も多いはず。

 90年代の時代的精神を担った伝説的なミュージカルとも言われる「RENT」ですが、そう呼ばれる存在となったのは作品の魅力のみならず、その背景の、作・演出のジョナサン・ラーソンの運命も大いに影響しています。

日本でも人気の演目に!

 大学時代に演劇を先行していたラーソンは、マークたちと同じく芸術家仲間と家賃をシェアしながら暗中模索のなかで創作活動に従事。構想から7年かけやっとプレビューにこぎつけた「RENT」の初日前夜、大動脈がん破裂により35歳の若さで他界し、自作の大成功を目にすることはありませんでした。

 日本では、98年に初演。マーク役を演じたのは山本耕史で、映画版の公開当時「RENTは僕の役者としてのすべてと言っていいほどのもの」「役者としての自覚を芽生えされてくれた」と語るほどラーソンへの心酔ぶりを明かしています。

 その後、2008年からは日本版は東宝が制作。東宝は大作ミュージカルを数多く主催しており、ゲイの役が登場する作品も多数ありますが、2017年の現在でも、騒々しく好色な、いわゆる「オカマ」としての扱いが目立つのが現実です。性的マイノリティをポジティブに描写しモチーフのアングラ色も強い「RENT」を東宝が手掛けることは、当時相当な驚き(と同時に一部の間では、山本が外れたキャスティングを含めて「オトナの事情だな」との確信)を持って迎えられました。

 HIVは、初演と同じ96年に新しい治療法が登場して感染による死亡率が激減、必ずしもエイズの発症や死と結びつくものではなくなりました。人は誰でも何かしらの「重荷」を背負っていて、時には恋や人生に及び腰になることもあるものですが、明日でも昨日でもない「今日」を大切に生きるというメッセージの普遍性もまた、疑いのないもののはずです。

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

@westzawa1121