インタビュー

「夫と死ぬまで恋愛してセックスしていたい」――更年期の入り口に立った、コラムニスト吉田潮さんにインタビュー

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更年期症状を和らげる治療方法はちゃんとある

『産まないことは「逃げ」ですか?』

吉田潮さんの最新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』これまた名著です

――日常生活に支障をきたす症状が出たらHRTを行いたい、とのことですが。私は49歳でHRTを始めていま約8カ月目になるんです。

「訊きたい! HRTってどんな感じですか?」

――私の場合、とくに大変な症状があったわけではなく……ライターという職業柄でしょうか、ちょっと自分の体で試してみたかったというのが大きかったですね。そんなことを考え始めていた矢先に、ちょうど生理が長引いて終わらない、出血も多いという症状があったので、それをきかっけにHRTをスタートしました。

「わかります! ライターってそうなっちゃいますよね。なんでも自分で試したくなってしまうところがある」

――その際に生まれて初めて女性ホルモンの値を計ったんです。とくに気になる症状もなく心身共に元気でしたし、漠然と「私まだまだホルモンあるはずよ~」と考えていたら……もうエストロゲンがほぼ出ておらず。「いつ閉経してもおかしくない状態だ」とお医者様に言われました。

「これ私の感覚なんですけどね。女性ホルモンは減っても、ほかに補うエネルギーがあればもしかしたら更年期の症状はあまり出ないんじゃないかな、と思うんですよ。よくわかんないけど、ドーパミンとかノルアドレナリンとか。もちろんみんながみんなそうではないけど、そのタイプの人もきっといるんじゃないかなぁ」

――私、知らぬ間にドーパミン出しまくっていたんでしょうか(笑)。エストロゲンが減り、FSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体形成ホルモン)の値が高くなると脳は「ホルモン出せ、もっと出せ」と休む間もなく超興奮状態に。だから更年期に不眠の症状を訴える人が多くなるわけなんです。でも私はそんな数値にも関わらず不眠に陥らず、毎晩ぐっすり眠っていました。だからデータ見たときは「これほんとに私の?」と一瞬疑ったぐらい(笑)。ひょっとすると私は、ホルモンバランスの影響を受けにくいタイプかもしれません。HRTをやっていても、なにかが劇的に変わったということはいまのところありませんし。

「それそれ! そういう話をもっとたくさん先達から聞きたいわけなの、私も、そしてもっと若い世代も」

――吉田さんもHRTについて抵抗はない、と。

「まったく。女性ホルモンを補うことで体が楽になるなら、辛い症状が出たならすぐにやりたい。でも基本は楽観主義なので。いまからあまり心配はしないでおこうとは考えてます」

30代で太陽が黄色く見えるまで夫とセックスした

――旦那さまとのセックスのお話をもう少し聞かせてください。『産まないことは「逃げ」ですか?』の中で、不妊治療をしてから昔ほど性欲がなくなったと書かれていました。

「不妊治療をしていた頃は、快楽のためではなく、生殖のためのセックスをしていましたから。理性が吹っ飛ぶようなことはなかった。いまだにセックスしていても、頭のどこかにこびりついているんです、まだ。生殖のためのセックスをしていた自分が」

――快楽のためのセックス、いつかは取り戻したいですか?

「最近は少しずつ取り戻せてはいるけど……でも30代前半の理性がぶっ飛んでただただ快楽を追求していた頃には、やっぱりまだ戻れてません。実はね、閉経後にまたそういうのを取り戻せるんじゃないかな、とちょっと楽しみにはしてるんですよ」

――30代の頃はご主人と太陽が黄色く見えるまでセックスしまくっていたんですよね?

30代前半の頃は体力が尽きるまでいろんな人とやりまくってました。いまの夫ともさんざんやりまくってましたし。人に<セックスの全体量>というものがあるとしたなら、私はもう使い果たした気もします。でも一方で、まだこれからもっと違う気持ちよさがあるんじゃないかって期待してるところもあって。いまのこのなんとなくモヤモヤする更年期を抜けたら、またセックスを楽しめるんじゃないかなぁ。そのためにいまはちょっとお休み、パワーを溜めておこうと思います」

――体力と性欲の温存ですね。

「時代劇でも有名な大岡越前こと大岡忠相が、自分の母親に『女の性欲はいつまで続くのか』と聞いたエピソードがありますよね。母はなにも答えず、火鉢の中の灰を火箸でいじった。それを見た大岡越前は、答えは『灰になるまで』だと悟るわけです」

――あ、そういうシーンがあったこと、私も聞いたことがあります

「女は灰になるまで女。大岡越前の母の気持ちを、私も持ち続けたいな。生理があろうが、なかろうが女は女ですよ。だからもう一度理性が吹っ飛ぶ快楽を求める気持ちは、老年期に取っておこうと思ってます。私は死ぬまで夫とセックスをして、恋愛をしていたいんです」

――太陽が黄色く見えるまでセックスをやりまくったご主人と、死ぬまでセックスをしたい。恋愛もしていたい。このセリフ、きっと多くのご夫婦が羨ましいと感じるでしょうね。

「もちろん、セックス中はお互いに加齢を感じることもあるわけですよ、膝が痛いとか、足がつったとか。昔ほど長時間はできないし。そうすると、最速で合理的に気持ちよくなれる方法がわかってる相手とするのが一番いいじゃないですか。私の場合はそれが夫なんです」

――効率重視ですね。そうえいえば以前インタビューした加奈子さんという結婚19年目でお子さんが4人いらっしゃる40代の女性も「確実に気持ちよくなるセックスをしているから、マンネリでも気にならない」そうで、ご主人と頻繁にセックスしているとおっしゃっていました。ところで、吉田さんはご主人以外の人とセックスしてみたい気持ちはあります?

「ほぼないなぁ。めんどくさい。夫とは相性もいいし。お互いの気持ちいいスイッチがわかってるから。たとえば、ご新規さんとやるとするでしょ? そうすると『この人のスイッチはどこかな』『私のスイッチをうまく探してくれるかな』とか、そういうの今さらもう面倒じゃないですか。私のスイッチを絶対すぐにわかってくれる、という人がいるならお金払ってでもやりたいけど。でもこの世に絶対ってないし。そこでお金使うなら、夫とすればいいわけで。確実に気持ちよくなれるんだし」

主語は「自分」であって、「世間」ではない

――『産まないことは「逃げ」ですか?』を読みながら「そうそう!」「私もそう感じてた!」と膝を叩きたくなるような思いに何度もかられました。女として、人として生きていく上で覚えておきたい言葉がたくさん詰まった1冊だと感じています。吉田さんがこの本に込められた思いを聞かせてもらえますか。

「私はこんなにデカくても(身長176センチ)女だし、声が低くても女だし。たとえば、閉経したとしても、病気になって乳房や子宮を摘出されたとしても、それでも女であり人間なわけです。さっきの大岡越前の母の話じゃないけど、女は死ぬまで女。その感覚を忘れずに持っていれば、みんなもっと気持ちが楽になるんじゃないかな。世間が決めた定義に囚われすぎている人が多いように感じます。『あまり狭いところにこだわりすぎてると、自分の首を絞めることになるんだよ』と、そういうことが伝わればいいなと思いながら書きました」

――この本の中に「子供が好きじゃない、いらない」ということを大きな声で言えない人は多い、と書いてあったのですが。実は私はすごく若いころからそういうことを普通に誰にでも話をしていて……いま思えば影で眉をひそめていた人も多かったんでしょうね。

「ほんとうは、そんな風に自分の思ってることを普通に話せる世の中であるべきだと思うんですよ。『納豆は苦手です』というのと同じ感じで、『子供は苦手です』と言っていいと思うし、そこに変な妬みやそしりがない世の中になってほしい。子供を産みたい人は産む。産みたくない人は産まない。それでいいはずなんです。欲しくないのに無理やり産むことを強制される世の中になってはいけない。『子供産んで当たり前』みたいな風潮、世の中にはまだあるでしょ? でも、結婚しないという選択をする人が増えてきていますから、出産についても段々とそうなっていくんじゃないかな」

――この本を読んで、女性の一生ってマウンティングが続くなぁと改めて感じました。産む、産まないや、閉経した、しないでマウンティング。マウンティングするようなコミュニティに属さなければいいんでしょうが、逃げ場がない場合もある。そうするとマウンティングで精神的に辛い思いをする人もいるだろうし、不安になって世間のいろんな情報に惑わされ自分を失う人もいる。もうちょっと楽に、自分のまんまでもいいんじゃないかな、と読みながら考えさせられました。

「自分の脳でしっかりと考えるのって実はけっこう大変で。情報に乗っかるほうが楽、という人も多いのかもしれませんね。でも、我々は主語が自分であるべきだと思います。『それって誰が言ったの?』いう話に振り回されてばかりいると、どんどん息苦しくなってしまうんじゃないかな」

――自分の人生の主語は世間ではないわけですものね

「そう! 私はこの本でそういうことを書いたつもりなんですが、やっぱり誤解する人もいるみたいです。『子供は世の宝なのに、それを産まなくていいなんて!』って」

――え? それは本をまったく読んでない人ですよね。産まない人生をすすめるものじゃない、ということはきちんと本に書いてあるのに。

「タイトルだけしか見てないんでしょうねぇ。そうそう、出版後に地方に住む読者の方からお手紙をいただいたんですけど。その方は『子供がいないことで、自分の住んでる地方では肩身の狭い思いをして暮らしている。でも実は自分は子供が欲しいと思ったことがない。だから、本の中でそれを言ってくれてありがとう』と」

――この本を読んでそう感じられる方は多いと思います。

「その手紙を読んで、コミュニティによっては子供がいないことでとても辛い思いしている人がいるんだと痛感しました。だからこの本を、地方の本屋さんも積極的に置いてほしいなと願っています。図書館でもいいんです。とにかくこれを読んだことで、少しでも気持ちが楽になる人がいればいいなと思います」

―ー主語は自分であって、決して世間ではない。そして、女は閉経してもいくつになっても灰になるまで女。そういうことですよね。今日はほんとうにありがとうございました。

■吉田潮(よしだ・うしお)
1972年生まれ。編集プロダクション勤務を経て2001年からフリーに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。著書に「幸せな離婚」(生活文化出版)、「TV大人の視聴」(講談社)ほか多数。「週刊新潮」「東京新聞」「週刊女性PRIME」「NHK1.5チャンネル」などでコラムを連載中。

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日々晴雨

都内在住フリーライター、独身。いくつかのペンネームを使い分けながら、コラム、シナリオ、短編小説などを執筆。コピーライターとして企業のカタログやHPなどのライティングに携わることも。