カルチャー

完璧主義のモンスターだった母親から受けた傷と抑圧

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 小学校の放課後は学習塾、英会話、ピアノ、水泳、珠算のいずれかの習い事をこなし、食事が終わると皿洗い、というのが私の日課だった。この皿洗いは高校を卒業するまで私は一日も欠かしたことはない。食事が終わってから5分以内に皿洗いに取り掛からなければ、潔癖症の母はすぐに怒鳴り散らした。現在、私は排水溝の掃除やトイレ掃除よりも、皿洗いが嫌いである。こればかりはトラウマと言えるだろう。

 休日は本も読んだしテレビゲームもしたし、友達とも遊んだ。しかし、その友達についてすら母は「選別する権利がある」と言わんばかりに口うるさかった。「あの子は不良になるからもう遊んじゃだめ」「あの子のお兄さんは頭が悪い学校に行ってるから付き合うな」と。私がどう反論しても必ず却下された。

 いや、言い分など聞いてくれたことがあっただろうか。「あなたの話はイライラするから聞きたくない」と、まるで私に人権がないかのように扱っていたではないか……また、記憶が掘り起こされてしまったようだ。

 中学生になる頃、父との夫婦関係が修復してきたこともあるのだろう。私に対する精神的な束縛はなくなっていった。

 その頃の私はというと、向いてもいない運動部でのハードな練習についていき大きな大会にも出場、成績も上位のほうで、ボランティア活動という名の内申書を良くするための偽善行為にも参加していたため、いわゆる「いい子ちゃん」で通っていた。

 散々「母は恐ろしいものだ」と脳内にすり込まれていたので、ずっと母に褒められたかった。しかしクラスで2番の成績をとろうが、1番でなかったら母が褒めてくれることはなかった。部活を引退した頃から、私は両親が寝静まった夜中に家を抜け出してヤンキーグループに属する友人がたむろする公園などへ、こっそり遊びに行くようになった。そして、母が起きる前に家に入る。なんて気の小さくて情けない反抗だったのだろう。

 その後、私は母が決めた女子高を受験し、無事合格した。私は嬉しかったというよりも、母を満足させられることがようやくできたと、どこかほっとした。

 そんな私がなぜ単身上京し今のような逞しい人生を送っているのかというと、ある男との出会いによって大きく変わったのだが……それを書くにはさらに心をえぐるような苦しい作業を必要とするので、またの機会に記したいと思う。

 結果的に自分の決断と強行手段を使ったことで、現在の母子関係は良好といえる。今となっては母は私に「好きに生きろ」と言うし、母のことを憎んではいない。当時の母の心情を思えば、精神的に不安定な中で私を育ててくれたことに尊敬せざるを得ないし、家計が厳しくても私の将来を思って習い事をさせてくれたのだから、感謝もしている。しかし、母に好かれたいという気持ちは未だ拭えず、どうしても顔色を窺ってしまう。

 母の望む自分でいなければという思いから、実家に帰省をしても母に相談や愚痴をこぼすなんてことはできない。一見仲がよさそうに食事をしていても、そこに存在するのは本音ではない。仮面夫婦という言葉を借りるとすれば、仮面母子という言葉がぴったりである。

 よく仲のいい友人が「お母さんと言い争いになった」と言っているのを聞いて、私は内心とても羨んでいる。本音で話し合い、ケンカをし、時には甘えることもできる……そんな普通の母子関係というものがどんなに素晴らしいものか、友人はきっと理解していない。

 そして私はそんな友人に「母親が大好きだ」とよく話すが、それは完全なる自己暗示であることに今更ながら気が付く。

“アダルトチルドレン”という概念の存在

 アダルトチルドレンという精神医学上の病名があるわけではない。心の病気や性格の問題ではないのだ。自分の生きにくさの由来を理解し、新たな成長の出発点とするための言葉である。

 しかしながら、日本の社会では正しく認知されているとは言いがたい。人生の諸問題は本人が単独で解決するべき、という風潮が日本では根強く、第三者が介入して問題解決をするという考え方自体が希薄である。

 さらに、心の穴を埋めるために何かに依存する傾向が強いのもアダルトチルドレンの特徴であることが最近わかった。

 アルコール、薬物、過食、仕事、買い物、ギャンブル、異性、セックスなど、とにかく依存体質であり、それにのめり込むことで一時的に楽になる。でもこのような不健康な習慣をやり過ぎてしまい長引けば、精神だけでなく人生までもが破綻する危険性があるだろう。何事もやり過ぎは良くない。食べることも寝ることも大切なことだが、それですらやり過ぎは健康を害する。

 漠然とした生き辛さを抱え、幼少時代の家庭環境を思い返した時、そこに原因を見つけたのであれば、あなたもアダルトチルドレンかもしれない。

 自分ももう大人なのに親のせいにして情けない……アダルトチルドレンに対しそんな感想を抱く人は、いざ自分もそうではないかと思いあたる節があっても、そのことを認め辛いだろう。親に対する感謝と、親から受けた傷はまた別の話であると思う。なんと日本人の60%がアダルトチルドレンであるという説もある。

 アダルトチルドレンの自分が悪いのではなく、本人・両親・環境のバランスの不調和によって起きるものであると、精神分析の分野に知識がある方から言葉をもらった。そして、解決策も治療法も精神医学的にないという言葉も。

 それでもなお私がこの記事を書きたかったのは、世間の認識が間違っていることを正したかったというだけではない。間違った言動も犯した過ちも、「あなただけが悪いのではない、自分自身を許してあげて」と、多くの人に伝えたかった。勿論、それは自分を「アダルトチルドレンだから仕方ない」と甘やかすのとは違う。

 克服には時間がかかる。自分自身の過去との闘いと「許すこと」が鍵となるため、私からアダルトチルドレンの他者へアドバイスなんて傲慢なことは到底できない。しかし、親との関係において傷ついてきたという自覚があれば、アダルトチルドレンの概念に自らが当てはまるかどうか、確認してみることから始めてみてはどうだろうか。

asumodeusu

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アスモデウス蜜柑

好奇心旺盛な自他共に認める色欲の女帝。長年高級クラブに在籍し、様々な人脈を得る。飲み会を頻繁に企画し、様々な男女の架け橋になり人間観察をするのが趣味。そのため老若男女問わず恋愛相談を受けることが多い。趣味は映画鑑賞で週に3本は映画を見る。