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演劇界と文芸界の深い関係。小説化されれば文芸賞獲得まちがいなしの劇作家たち

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劇団桟敷童子「標〜Shirube〜

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 第158回の芥川賞・直木賞が116日に決定しました。今回の選考でひときわ注目を浴びたのは、バンド「SEKAI NO OWARI」のSaoriこと藤崎彩織のデビュー小説「ふたご」が直木賞の候補作に選ばれたこと。

 2015年にお笑いタレントの又吉直樹が同様に「火花」で芥川賞を受賞し、話題性のために色モノが書いた作品を選んだのではという批判もありましたが、本職の作家の手による作品だけでなく別ジャンルのクリエーターが書いた作品にも光があてられたという意味では、活性化を目指す出版業界の努力は認める価値があるもののように感じます。

 演劇と文学は古くから切っても切れない深い関係にあります。脚本を担当する劇作家は、心を揺さぶる物語を生み出すプロ。劇団「五反田団」主宰の前田司郎や「イキウメ」の前川知大など、小説も手掛ける劇作家や演出家も多く、中には本谷有希子のように芥川賞を受賞している劇作家も存在します。

 上記の劇作家たちの戯曲は映画化もされており、演劇ファン以外でも名前を目にする機会がありますが、一般のひとが触れることの少ない小劇場の劇作家のなかにも、壮大な文学のような作品の作り手がまだまだたくさんいます。

 筆者の独断と偏見で、戯曲を小説化してほしい&小説化したらどんな賞でも受賞間違いなし! と常々感じている作家、東憲司の作品について紹介したいと思います。

肉親の戦死を受け入れられない女たち

 東は1964年生まれで福岡出身。1999年に結成した「劇団桟敷童子」の代表を務め、劇作と演出、美術を手掛けています。作品の大半は、東の生まれ育った九州の炭鉱町や山間の集落などを舞台に、民俗的な伝説や因習をモチーフにしたものです。劇団以外の作品を作・演出するときは現代の物語になることもありますが、桟敷童子では第二次世界大戦前後の時代が多く、社会の底辺にいても力強く生きる男女の姿を描いています。

 桟敷童子の直近の公演は、2017年12月に上演された新作「漂~shirube」で、中国から玄界灘を越えて九州に移り住んだ民がいたという九千坊(くせんぼう)伝説が盛り込まれています。

 終戦間際、九千坊の子孫が住むとされる土地にある小さな集落に、漂流してきた3人の若い脱走兵らがたどり着きます。そこには、出征した父や夫の戦死の知らせを受け入れられない7人の女性が住んでいました。

 身よりも帰る場所もなく、軍隊に戻っても殺されるだけだと絶望し身投げしようとする彼らに女たちが提案したのは、集落に伝わる古来の儀式の復活への協力。女たちは、「エベッサマ」=水死体を海の神「わだつみ」に捧げると紅の風が起き、海の向こうから蜃気楼にのって会いたいと思う故人が戻ってくるという伝説の再現を試みていました。そこに、脱走兵たちの上官で、死んだと思われた楢原が現れます。

 女たちを率いるのは、元娼婦のワタリと元国民学校の教師のリュウ。わだつみの儀式を行って愛する男性に会いたいほかの女性たちと違い、ワタリだけは、自分を売って身を落とさせた父親へ報復したいという愛憎をのぞかせます。

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

@westzawa1121