夜が白々と明けてくると夢子は少しほっとした。入院4日目、手術の翌々日の朝だ。その日の内服薬を持ってきた看護師から退院の説明があった。本日も含めてあと4日で退院になる。
正直、夢子は面食らった。入院が1週間ということは知っていたが、熱も痛みもあり眠れず疲れ切った状態で退院のことなどイメージすらできなかったからだ。
「何か不安なことはありますか? どんなことでもいいですよ、言ってみてください!」
看護師に促され、夢子はおずおず口を開いた。
「えっと……こんなに痛みが起きてしまって、アパートに帰って生活できるのか不安です……そもそも階段を昇ってアパートの部屋に入れるのかも不安で……あと、手術後まだ絶食の状態の時に体重を計ったんですけど、3kgも増えていて……お腹も腫れてパジャマがきつくなってるし……お腹が出たまま、体重ももとにもどらないんじゃないかと思うと不安です……」
看護師は夢子の顔をのぞき込むようにしていった。
「ああ、手術の時に傷口を洗い流すために使った水が、まだお腹の中に溜まってるんですよねぇ。それで体重が増えるんです。そのうち自然に吸収されて体重は戻りますよ。あと炎症が起こってるからちょっとお腹も腫れることはありますが、心配はいりません」
看護師が力強く断言!
「あの、私、人より症状が重くありませんか……? 回復、しますかねぇ? 退院しても階段、昇れますか?」
「極重(ごくしげ)さんが他の人より症状が重いということはありません。それにこれまで、同じような手術で1週間後の退院の時に階段が昇れなかった人はいませんでした! お腹がもとに戻らなかった人もいません! だから大丈夫です、絶対に回復します!」
最後のほうを看護師は力強く断言した。
夢子は知っている。人生に「絶対」などないことを。体調に関してなら尚更だ。だが気弱になっている病人には、時として論理を超越した励ましが必要な時がある。現場で毎日働くこの聡明な看護師は、きっとそれを知っているのだ。
医師だったら立場上、このように患者を励ますことはできないだろう。ドクターはいろんな状況を想定した発言をしなければならないから、「絶対」なんて断言できない。看護師の心遣いに、夢子は感謝した。