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重度の便秘、腰痛に苦しんだ子宮摘出手術の入院生活がついに終盤を迎える

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摘出を控えた子宮にちんぽを届けたくて突っ走ってきた女性が、ついに実感できた愛の画像1

イラスト/大和彩

 前回、手術後の体重増加やひどい腰痛のせいで不安が止まらない夢子の様子を話したよな。

 入院5日目。昨夜は3時間しか眠れなかった。眠いうえに熱っぽく、だるい。思考がまとまらない。ひと目でわかるほど腹がふくれ、以前はゆるかったパジャマズボンのゴムが食い込んでいるほどだ。腹部が肥大したぶん負担がかかるのか、腰が相変わらず痛い。

 この日は担当ドクターの診察があると聞いている。彼に会うのは入院前以来だな、貴重な機会だ。診察といってもほんの数分だろう。聞きたいことは全部聞けるよう、夢子は質問を全部ポストイットに書いて備え付けのテーブルに貼り、準備万端にしている。

頑固な便秘を解消したい!

 毎朝恒例、看護師の訪問の時間がやってきた。昨日とは違う看護師に便通の有り無しを聞かれ、ないことを伝えると、

「努力してください! 病棟を2~3周、朝・昼・夕、散歩してください」

と叱咤された。夢子は横綱級の便秘である。歩いたくらいでは夢子の腸さんたちは通常、なんの反応も示さない。しかし努力なくして心と体を鍛えることなど不可能。とりあえずやってみることが大切だ。診察に来るはずのドクターも現れないし、朝のお散歩ノルマを果たすことにした。

 足を床に降ろすたびに100枚ほどのカミソリに腹の中を引き裂かれているような感覚がある。膝を曲げたまま、そろりそろりとすり足で歩いた。姿勢をよくした方が腸に刺激がいくだろうと背筋を伸ばすと、途端にカミソリたちが暴れ出す。

 まずはテイク・イット・イージー、一歩ずつ進んでいくしかない。腰をかがめ、腫れた下腹部にそっと手を当てながらカタツムリのペースで歩く夢子だった。

 入院当初は、病棟を歩いている女性たちが年齢関係なく、みな申し合わせたように腰を丸め、下腹に手を当てている光景が不思議だったが、こういうことだったのか。彼女たちはそれぞれの腹の中のカミソリを御しながら、気力とパワーを振り絞って歩いていたんだ。まるで暴れ馬を抑えるカウガールのように。

(どう、どう)

と腹の中の暴れカミソリたちをいなしつつ、生真面目に朝昼夕と病棟をぐるぐる回ってみても、腸さんは知らんぷりを決め込むばかりだった。

術前から気になるあのことを質問!

 そんな散歩の途中、運悪く廊下でドクターに遭遇してしまった。いや、彼に遭遇したのは幸運だったのだが、せっかく用意したポストイットを持ち歩いていない!

 廊下脇の診察室に案内され、お腹の上から当てるタイプのエコー検査を受けた。エコーの器具が腹に押し付けられると、中身がボロロンと雪崩をうって崩壊していく。アコーディオンの蛇腹がべろんと伸びたまま入っているようだ。腹の中身が安定せず、心許ない。

 だがプロの見解によると、心配はないとのことだった。

「腎臓は腫れてないから大丈夫ですよ。便秘ですか? なら漢方を出しておきますね」

 夢子はポストイットに書いてあった質問事項をひとつ思い出した。

「そういえば、しもは裂けましたか? 縫いました?」
「ちょっと裂けたので、3針くらい縫ったかな」

 よし、しもの場所を突き止められそうな会話の流れだ、これでシュートを決めてみせる!

「なるほど! 具体的にどこを縫ったんでしょうか?」

 しかし、球はむなしくゴールからはそれていった。

「えっとそれは……

 医師は机の上にあったメモ帳を引き寄せた。そのメモ用紙には、子宮や卵巣の図があらかじめ印刷してある。おお、絵にしてもらえればようやくしもの謎が解けるに違いない。

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』