
とても大事な行事なのだけれど。 Photo by Paul Matthews in Korea from Flickr
韓国は毎年1月末から2月上旬にかけて旧正月を迎える。
日本では1月1日がポピュラーだが、韓国はこの旧正月を“正式な正月”とする場合が多い。2014年も1月29日から2月2日までの大型連休となり、会社や公共機関の動きはほとんどストップ。個人的には、正月ボケが直らないうちにもう一度正月が来るという、少し羨ましいシュチエーションではある。
この旧正月には、韓国の各家庭でチェサ(祭祀)が行われる。チェサとは先祖供養の法事の一種で、旧正月以外にも秋夕(旧暦の盆、時期的には9月の中旬ごろ)などに行われることが多い。儒教式や仏教式などがあり、宗教的な縛りも薄いのが特徴的。韓国人にとってなじみの深い家族イベントと言っても差し支えない。
このチェサは、時代や地域によって差はあるものの、基本的に長男の家に親戚一同が集まり行われるのが通例となっている。そして、野菜のナムル、チヂミ、たこ、あわび、魚、鶏肉、豚肉、汁物、卵料理、豆腐料理、お酒、お菓子、果物、お餅などなど……ファミレスのメニューを始めから全て注文したくらい大量の料理が用意される。その料理が、墓前や写真の前に祀られ、儀式が終わった後には親戚一同で酒盛りとなる。
一見、牧歌的な風景もある韓国の古き良き風習なのだが、大きな問題も。これら料理を準備するのは絶対的に女性の役割で、男性はあれこれ指示するだけ。ほとんど手伝わないという点だ。最近、韓国でも共働き家庭が増えているため、結婚後に「こんな大変だったなんて……」と、不満を漏らす女性が増え続けている。
例えば、韓国のある掲示板にはこんな書き込みが乱立している。
「結婚して初めてチェサの準備をしました。死にそうです。チェサがある家に嫁に行くなって言っていた先輩の話が身にしみる(泣)。正直、食べないものもたくさん。その分、節約してみんなで外食でもすればいいのに……」
韓国のメディアやバラエティーでも、チェサはたびたび大きく取り上げられる。今年の旧正月前に放送された討論番組『新世界』に登場した女性の証言は、前出の掲示板の悩み相談より少し悲劇的だ。
「チェサの日が来ると、準備のせいで体の節々が痛くなる。それだけなら耐えられるかもしれませんが、準備を完璧にやっても家族や親戚からは、ねぎらいの言葉ひとつない。そういう時は、涙が止まらなくなる」
妻もつらいが、夫もつらい
夫と相談して決めればいいと思うかもしれないが、チェサ問題は非常に複雑だ。義父や姑、親戚一同が参加するため、新参者の嫁だけが“義務”を回避することは非常に難しいのだ。チェサが原因となり、離婚まで発展したケースも少なくない。
ある男性は、チェサのために嫁に離婚を迫られ、その想いをブログに綴っている。
「結婚5年目の会社員です。結婚生活に不満はなく、とても幸せに過ごしていました。ただチェサが問題で嫁が離婚しようと……。ソウルから4時間ほどかかるポハン(浦項)という場所が田舎なのですが、チェサが多くて、そのたびにストレスが溜まるそうです」
ちなみに、チェサは必ず年2回という訳ではない。家庭によっては、一周忌や三周忌など、節目ごとに行われる。多い家庭では、年間10数回(!)というところもある。韓国の国土がそれほど広くないとはいえ、ことあるごとに帰省しなければならないのは非常に大変だ。
逆に、中途半端に理解がある男性が板ばさみになる場合も多い。一族の小言と、嫁の憎しみに満ちた視線。それらを一生受け続けると考えただけでも恐ろしくなる。また、長男=チェサというイメージが定着しているため、特定の男性たちにとっては、結婚のハンデになることは言うまでもない。
もし仮に、韓国人男性との結婚を考えている女性がいるならば、このチェサの問題は避けては通れない問題。結婚前に「日本人はチェサをしないのよ。その代わりあなたの先祖は大事にするわ」と、釘をさしておくのもひとつの手かもしれない。
■河 鐘基/エンターテイメントから政治まで、韓国の社会問題を広範囲に取材。雑誌やウェブ媒体を中心にライター活動を展開中。K-POPも好きだがAKB48の方が好きという、韓流ライターにあるまじき趣味を持つ。さらに正直に言えば、ローラの方が好き。