しかし、それは励ましで終わらずに本当に見つかったのだった! 家族を巻き込んで「これや!」と思って見つけた一芸アイテムは、なんと“さつまいも”であった。な、なぜに“さつまいも”が北川家で一芸アイテムにヒットしたのだろうか? なんでも、当時、北川さんが学校での美術の授業でちょうど彫刻を彫っていたらしく、彫刻刀があるからそれで“さつまいも”を彫って“いも版”を作成すればいいという作戦を編み出したのだ! やるじゃん、北川一家! でも、ドラマのオーディションで、作品のコンセプトに全く関係もないのに“いも版”彫る人なんてなかなかいないよ! いたとしてもだいぶ変わり者だよ!
“いも版”で挑むと決めたからには、しっかりとそれなりの準備をして行こうと、その見つけ出した“さつまいも”を半分に切ってラップに包み、失敗しても大丈夫なように切った半分もスペア用として一緒に鞄に詰めたそうだ。父親からはインクを借り、母親からは半紙をもらって、“いも版”の準備は万端となったのだ。家族中の想いが“いも版”に託されたのである。
いざオーディション会場に着いた北川さんは、周りの参加者たちがウォーミングアップでY字開脚ストレッチをしたり、安室奈美恵の歌を練習していたらしく「ちゃうとこ来たわ~……」と、気後れしたそうだ。そして、気合いを入れて神戸から持参した自分の“いも版”セットをそっとしまったのだとか。
けれども、自分の番が来てしまい、もうやるしかなかった。何を彫るかも決めていない状態で臨んだため、頭の中は真っ白になっていたのだとか。 “いも版”を彫ることを告げても、「“いも版”? どういうこと?」と、審査員からは冷めた感じで質問されてしまい、北川さんはネタ的に「あ~、これスベったなぁ……」と状況のヤバさを感じたそうだ。
しかしここで、くじけない度胸を見せつけちゃうのが北川さんのスゴさ。何が彫れるのかを審査員に聞かれ、「何も考えてないことがバレると落とされてしまうかも!」と瞬時に判断した北川さんは「何でも彫れますよっ」と得意げに返事をしたのだった。そして「せっかくなのでお名前いただいてもいいですか?」と審査員の中のドラマプロデューサーらしき人の名前を聞き出すと、その場で正座して、実家から持参した“さつまいも”を彫り出したそうだ。他の参加者が歌ったり踊ったりする中で、ひとり静かに淡々と“さつまいも”を彫る北川さん。なんというシュールさでしょう!
なんとか制限時間内に“いも版”が完成し、それに父親のインクを付けて母親の半紙にドンッ! と押し当てた作品を「どうぞ、良かったら持ち帰ってください」と審査員にプレゼントしたそうだ。すると「あ~、綺麗に彫れてるねぇ」と満更でもない感想が返って来たらしい。苦し紛れに見つけ出した一芸だったのに、ちゃんと仕上がっとるやん!
ところが、そのオーディションの帰りの新幹線で、北川さんは「あ~、もう落ちたなぁ……」と落胆していたそうだ。
「落ちたとしたら、もう“いも”で落ちた」
「もし、受かったとしたら“いも”で受かった」
と、オーディションの結果は「“いも”次第である」と、女優の夢を“いも”に託していたらしい。そして、その結果『美少女戦士セーラームーン』のオーディションに見事合格したのである。すでにアクションやお芝居や歌のできるライバルたちを差し置いて、まさかの“いも版”で勝ち取ってしまったので、申し訳ない気持ちにはなったらしいが、「そのお陰で今がある」と感謝していた。
しかも、この時、“いも版”作成が初めてだったそうだ。学校の授業では木のオルゴールを作っていたのだとか。やったこともないことを一芸として披露していたのである。それをキッチリ作品として仕上げちゃうんだから、どんだけ器用で強運なんだか……。ただでさえ、オーディションなんて緊張しそうな状況なのに、淡々と冷静に強引に乗り切った北川さんの度胸の良さにとても感心した。もしかしたら、そんな特異な個性が審査員の目に止まったのかもしれない。
それから10年、北川景子という女優が第一線で活躍している現在、当時名前を“いも版”に彫られた審査員は、今どんな気持ちで彼女の躍進を見ているのだろうか?「まさか、あの“いも版”の子が……」と現状の姿に驚いているか、はたまた「自分の目に狂いはなかった!」と審査員としての自分たちの審美眼を自負していたりして。いずれにしても、自分にオーディションを勝ち抜けるような武器がなくても、ギリギリまで頑張って一芸を捻り出した北川景子とその家族の“諦めない心意気”を讃えたい。
■テレ川ビノ子 / テレビが大好き過ぎて、頼まれてもいないのに勝手にテレビを全般的に応援しています。おもしろテレビ万歳!
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