普通、「秘め事」として扱われるセックスというテーマは、それが秘め事であるからこそ、悩みを抱えた時に誰にも打ち明けられず深刻なものになりがちです。親しい友人にも相談しにくい事柄ですし、たとえ相談したとしても人によって性癖や感じ方は千差万別でありますから、せっかく受けたアドバイスも自分にはまったく有効でなかったりして難しい。
恋愛と同様に、セックスにも正解はないと言い切っても良いかもしれません。そんな実情とは裏腹に、世の中にはセックスのお悩み相談本が氾濫しており、それを読むと、まるでセックスに正解があるかのような錯覚に陥りがちです。この現状に、違和感を覚える人も少なくないのでは。
そんななか、あるセックス指南本を読みました。人気AV男優の一徹さんが先月上梓した『恋に効くSEXセラピー』(メディアファクトリー)です。AV男優というセックスのプロが書いた、女性向けのセックスお悩み相談本……と聞けば「プロがシロート女に、男を喜ばせるテクニックを教えてやるわい! ガハハ!!」的なイメージを思わず抱いてしまいますが、本書はちょっと違っています。
セックスの悩みは千差万別です。積極的に性を謳歌し、「男性にもっと悦んで欲しい! けれども、やり方がわからない!」という女性もいれば、「ぽっちゃり体型に濃いアンダーヘア。彼に嫌われないか心配です」、「私は濡れないオンナ」、「30代で処女」などコンプレックスゆえセックスに消極的な女性もおり、そのどちらかに偏ることなく本書には様々な女性からの悩みが寄せられています。
もともとAV男優らしからぬ優しげな雰囲気で人気を獲得した一徹さんですが(偏見ですがAV男優といえばオラオラ系のイメージがあります)、文章からも固くなったココロをほぐすかのような癒しのオーラが醸し出されています。上から目線の回答に終始することなく、一徹さん自身が相談者の隣に座って話を聞いているような、安心感もありました。時に「うーん、これは難しいよね」と一緒に悩みを共有しているような場面も見えます。
たとえば「男性を悦ばせる方法」について、
「男性を悦ばせる方法って、実はとても簡単。女性の場合、初めてのマスターベーションがロストバージンよりも後っていう人も少なくないみたいだけど、男性の場合、そんな人はほとんどいません。(……)つまり、セックスを知るより前に、すでに数えきれないほど射精しているってこと。どこが気持ちよくて、どう触れれば射精感が高まるかを知り尽くしているし、性的嗜好もだいぶ固まっている。(……)だから、彼を気持ちよくするための答えは、ぜんぶ彼のなかにある」
と一徹さんは答えます。もっと彼を気持ちよくさせたいなら、恥ずかしがらずに、彼にどうしたら良いのか聞きなさい、と。
同じ男として深く頷きました。もちろん、相談者の女性は、彼氏に「どこが気持ちいい?」と聞きにくいから悩んでいる……そんなことは一徹さんもわかっています。しかし、恥ずかしいとか、聞きにくいとかいった理由づけはいわばカラダではなくて「心の壁」。そこを乗り越えてセックスについてパートナーと話し合うことが、二人がひとつ上の関係を築く結果につながります。これができれば「ベッドの上以外でも、二人はもっと仲良くなれるよ」と、一徹さんは悩む女性の背中を押してくれるのです。
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