連載

佐村河内問題において法律では罰せられない”最大の罪“とは何か

【この記事のキーワード】

怒りの根源

 さて、この佐村河内プロフィールの音楽のくだりでは、私はわなわなと怒りに震えました。感情で言い換えれば、心で反応しました。対して、「被爆者を両親として広島に生まれる」「聴覚障害」「全聾」といったキーワードに関しては、「きっと音楽に関する経歴と同程度に悪質だろう」と頭で判断しました。この違いは、どこからくるのでしょうか。

 理由は簡単で、私自身ピアノを習っていたし、大学で作曲を学んでいたからです。私程度の者でも、どれほど彼の音楽に関するプロフィールが荒唐無稽で不可能か、肌で理解できてしまうというだけのことです。

 佐村河内さんのプロフィールは、私から見れば天才としか思えないようなレベルであっても毎日怠けることなく練習に明け暮れ勉強していた、クラスメイトや先生たちを冒涜するものです。その人たちのことを考えると、自動的に腹から怒りが湧いてくるし、嫌悪感を抱かずにはいられない。それだけのことです。

 対して、私は被爆二世でもなければ聴覚障害でも全聾でもない。残念ながら被爆二世・聴覚障害・全聾の知り合いすらいない。だから頭で判断するしかないのですが、被爆二世の人、もしくは、聴覚障害の人がもしこのプロフィールを読んだなら「被爆二世なめんな!」「聴覚障害なめんな!」「全聾なめんな!」と怒り心頭なのではないでしょうか?

 私はもうピアノも作曲も、何年もやっていないにも関わらず、このプロフィールに怒りを感じました。何年も、日々「被爆二世」「聴覚障害」「全聾」として人生を生き向き合っている人たちの怒りのレベルは、私なんかが感じる怒りの比ではないのでは……?

 さらには、佐村河内さんの詐称は、プロフィールを信じて「被爆二世の人や障害を持った人を応援したい」と彼を応援していた人を欺く行為でもあることは、言うまでもありません。

 2014年2月9日のラジオ、『ロケットマンショー』(J-wave)にて、佐村河内さんの問題について、ふかわりょうさんが「鈴木京香さんが剥いたりんごを『おいしい』って言ってたら実は新垣さんが剥いたりんごだった、ってことでしょ? この問題は」とコメントしているのを聞いて、なんて的確な表現なんだ! と目からうろこが落ちました。

 要するに、この佐村河内問題、嘘で人の気持ちを弄んだということが最大の罪なのでは、と思います。佐村河内守さんの行為は決して法に触れる行為ではないかもしれないけれど、多くの人の気持ちを侮辱して踏みにじった罪は重い、と私は思います。

■歯グキ露出狂/ テレビを持っていた頃も、観るのは朝の天気予報くらい、ということから推察されるように、あまりテレビとは良好な関係を築けていなかったが、地デジ化以降、それすらも放棄。テレビを所有しないまま、2年が過ぎた。2013年8月、仕事の為ようやくテレビを導入した。

 

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』