カルチャー

「ストリップ劇場は女子校みたい」「男の人も踊り子になりたい」劇場は多様なエロとの向き合い方を肯定する場所

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「ストリップは何でもあり」を体現する栗鳥巣さん

 栗鳥巣はもともとスカトロAV女優、ノイズバンドのパフォーマー、パフォーマンス集団・ピンクローターズの一員として多方面に活躍していたが、2003年に縁あってストリップの世界に足を踏み入れた。演目の特徴の一つは、その発想力から来るバラエティだ。

 SEは携帯の着信音と終演を告げる水の音のみ。その間、即興で会話を紡ぎながらベットに持ち込む「無音」。事前に客からTwitterで質問を募集し、舞台の上でラジオDJ風にトークイベントを繰り広げる「オールSMニッポン」。ガスマスクと防護服を身につけて演じる「反原発」。股間に差し込んだ筆で客の似顔絵を描く「おマン画」など、その演目は実に多彩でめまぐるしい。

ノイズミュージックをバックに、新聞紙に包まれて登場する栗鳥巣さん

ノイズミュージックをバックに、新聞紙に包まれて登場する栗鳥巣さん

※イラストは「第17香盤 大晦日と正月にストリップ劇場に入ると、2015年と2016年を身に染みて感じられた。」(たなかときみ作)より

 こうしたアイデアに満ちた演目はどのようにして生まれるのか。その答えは実にシンプルだった。

「私は『とにかく興味がある、熱意が込められるものをやる』ということをやっているんですよ。それがBLだということもあるし、この曲を使いたいという感情ということもある。うまいダンスとかさっぱりわからないけど、『これがやりたい』という熱意だけで作っていますね」

 もちろん、これらのアイデアがいわゆる「出オチ」で終わらず、エンターテインメントとして成立するのは、彼女のベテランストリッパーとしての力量と真摯さ、そして、サービス精神あってのことだ。

 たとえば、「おマン画」。これは、もともとある興業で長い空き時間が出来てしまった日に、時間つぶしとして始めたのだという。「筆でも挿して、大まじめな顔で人の顔を見る女って笑えるじゃないか」という動機で始めたものだったが、今では「リアルすぎてSNSのアイコンに使うと特定される」というレベルの高い似顔絵を生み出すに至っている。

「最初はまず筆が抜けてしまうし、丸も線も描けないんですよ。だいたい1000枚くらい描いたところで、股間と脳みそがつながって自由に描けるようになりますね。あとはひたすらデッサンです」という言葉には、体感した人にだけ許される説得力がある。

 栗鳥巣は、「ストリップの猥雑で何でもありなところが好き」だという。自らの演目を通して「何でもあり」を体現している人らしい言葉だ。

花電車に挑む栗鳥巣さん

花電車に挑む栗鳥巣さん

※イラストは「新宿のストリップ劇場で岩下の新生姜演目をする踊り子、栗鳥巣さんを観た!(岩下の新生姜ミュージアム版)」(たなかときみ作)より

 

劇場は「女子校」のような場所でもある

 栗鳥巣ファンの20代女性・Aさんは、2016年のBLストリップをきっかけにスト客になり、今でも定期的に劇場通いを続けている。彼女は、初めて劇場に訪れた際のことをこう話してくれた。

「その演目は客席でサイリウムを振るのが定番で、劇場に行ったらおじさんたちもみんな踊り子さんの求めに応じてサイリウムを持ってたんですよ。私が何も持たずにいたら、おじいちゃんが『貸すよ』って言ってくれて、その時に『いい場所だな』って思いました」

 Aさんは「訪れる前までは劇場の男性客には近づきたくないと思っていた」という。しかし、今では「お客さんたちの雰囲気も含めてストリップが好き」だという。

 実際、ストリップに初めて訪れた人が驚くのは、その客席の「のどかさ」だろう。ストリップの客はたいがい、時に神妙な顔で、時に子どものような柔らかい笑顔でステージを見守っている。アップテンポの曲では手拍子を送り、ストリッパーがベッドでポーズを取るごとに拍手をする。ポーズごとの拍手の様子は、まるでフィギュアスケーターがジャンプを決めた時のようで、その律儀さにちょっぴり笑ってしまう。

 ひとりひとりの内心はうかがいようがないが、客の間に「踊り子さんには手をふれない」というタテマエがあって、初めて成り立つのがストリップ劇場だ。

 Aさんは「無防備な姿でいてもお客さんは踊り子さんに手を出したりしない。ステージと客席の信頼関係で劇場が成り立っているという安心感がある。そして、踊り子さんは自分自身がプロデュースした演目を踊って、お客さんはそれを受け入れる。そういう場所だから好きだと思うんです」と言う。

 実際演目を観ていると、ストリッパーがモチーフに選ぶ題材は、年配の男性にとってわかりにくいものであることも多い。BLストリップはその典型だろう。しかし、それならそれで「推しの踊り子さん」の好きなものを理解しようと心を砕く人もいる。

 Aさんは、劇場を「女子校」のように感じるという。「女子校は『男性の目』という枠に当てはめられる心配がないから、女子が人間でいられる場所っていいますよね。劇場もちょっとそういうところがあります。だから、ストリップを観るようになってから、前より『自分の身体は男性に消費されるためのものじゃない。自分自身のものなんだ』って思えるようになりました」と話していた。

 Aさんの意見は、ストリップを知らない人にとっては牧歌的な幻想に聞こえるだろう。もちろん、ストリッパーと客の関係性は一様ではない。また、男性客の行動によって嫌な思いをしたという女性の話を、まったく聞かないわけでない。しかし、劇場のお約束故に守られている心地よさを感じるのもたしかだ。

 栗鳥巣も、ストリップの男性客について「こちらも『あの人たちは大丈夫』という信頼があってやっていますから。昔、普通職をしていた時には『女だから何かしろよ』と言われて非常に腹を立てていたんですけど、劇場の中ではそういうことがない。等身大の人間として接してくださるというか。だから、私には外の世界より居心地がいいですね。」と話している。

 ストリッパーが個として尊重され、それぞれのエロスを体現しているからこそ、客席も男女の別なくフラットにそのエロスを受け取ることが出来る。統計的な証拠はないものの、ストリップファンには多様な性的指向の人がいると感じることが多いが、それは劇場の空間が「女体のエロスは男性を興奮させるためのもの」という社会的偏見から、結果的に解放されているからかもしれない。

 「女性だからといって、エロに興味がないわけじゃないし、男性でもエロというよりきれいなものを観に来ているという感覚の方もいらっしゃるし、人それぞれですね」と栗鳥巣は言う。

 たしかに、女性だからといって裸体に欲情しないわけではない。そもそもストリップファンにはレズビアンだって少なくないのだから。さらに、男性だからといって挿入やペッティングといった直接的な行為ばかりをエロとして見ているわけではない。

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