ゲスすぎる男でも「彼じゃなきゃダメ」
先日、不動産会社に勤める高校時代の後輩女子から相談があると呼び出されて、ディナーに行ってきた。
「もともと同じ会社の上司だった彼のことが好きで、何度告白しても振られて。それでも好きだから一緒にいられるだけでいいの!……って勢いで身体の関係を持っちゃって。呼び出されたら何が何でも優先してたし、ゴムは付けないで何度もヤッてました。それで、実は妊娠しちゃって……。彼に言ったら、『付き合ってもいないんだからどうするかなんて決まってるだろ』って冷たく突き放されたんです。彼だけの責任じゃないのはわかってるし、彼も転職したばかりで忙しいし、中絶の予約を入れました。
そして手術の前日、いろいろ思い悩んでいたら急に腹痛がして、どんどんひどくなって、彼とは家が一駅しか離れてないから、『お腹が痛い、助けて』って電話をかけたんです。すると彼は『救急車呼んだら?』って寝ぼけた声で言って電話を切りました……。結局朝方までひとりで苦しんで、病院で中絶手術を受けました。彼にはその日、『寝ぼけてて覚えてないんだけど何かあったの?』って言われて。手術の日すら覚えてないんですよ。私、悔しすぎて、もう会わないって言ったんです。そしたら『わかった、幸せにしてくれる人と恋愛しなよ』ってあっさり言われて……。でも彼のことがまだ忘れられないんです。どう考えても、彼以外の人なんて無理で」
――悪いけど、お別れして正解よ。彼だけの責任じゃないとしても、妊娠した女に対する言い方じゃないわ。
「でも、よりを戻したくて。なんて彼に言えばいいかアドバイス欲しいんです。仕方ないことだったんだから、もう一回始めても遅くないんじゃないかって」
――それ、付き合ったとしても同じ扱いを受けるし、付き合う気がないのも見え見えじゃない。悪いけど、あなたが大事だったら体調が悪い電話を受けたらすぐに駆けつけるわよ。
「そうですよね。でも、寝ぼけてて記憶がないっていうのはしょっちゅうある人だったんです」
――それが何? もしよりを戻してから今後、同じことがあったら? 事故に巻き込まれたり、死ぬかもしれない危機に直面したら? それでも寝ぼけてたって言われたら許す?
「それは…でも……」
延々に続く「でも」と「だって」だった。彼女は責めたいはずの男をかばう。
求めている答えは、「次はきっと大丈夫だよ」だったり、「もう一度頑張ってみなよ」だったりすることはわかっている。私が賛同することによって勇気を得ようとしているのだ。でもそれは自我の押し付けでしかないように思う。
私は今までの人生の中で一番愛した男に、言われるがまま大金を渡したことがある。8時間待ちぼうけたことがある。彼の好きな料理を練習しそれを作って待ち、直前で反古にされたことがある。それでも私は彼の友達以上の扱いを受けなかった。それも私が決めて勝手に行動をしたことだ。愛情の欠片もない男たちに、私は平然とそれをしてきた。そして友人が強く反対する言葉すら押しのけて仕事や周りの大切な人を失った。どんな愛情も自分を見失えば、時に相手をも見失う。
一方的に人を愛するということは宗教に近いのかもしれない。相手の何気ない言葉から少しの希望を見出し、可能性を探そうとする。それでも、人を愛する気持ちは強く尊い。そして自我を崩壊させるほどに醜い。
翔太さんの素直なコメントのおかげで、いろいろなことを再確認したわ。ひとりよがりなセックスはひとりよがりな愛情と比例するわね。
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