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芸人殺しの「道端3姉妹」、なぜ彼女たちはイジりづらいのか

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『道端3姉妹スタイル』講談社

『道端3姉妹スタイル』講談社

 先日、たまたま『しゃべくり007』(日本テレビ)を観ていた時のことです。その日のゲストは道端カレン、ジェシカ、アンジェリカ、いわゆる「道端3姉妹」でした。今は女優メインで活動されている香里奈も、姉のあんな、えれなと一緒に「能世3姉妹」というセット販売のような売り出し方をされていたことはすでに記憶の彼方で忘れ去られつつある昨今ですが、道端3姉妹のセットはいまだ健在のご様子です。

 ネプチューンの名倉潤、くりぃむしちゅーの上田晋也ら、ツッコミ芸の切れ味に定評あるしゃべくり隊が道端3姉妹をどう料理するのか……なにかとんでもないものをあぶり出してほしい……という期待を抱きながら、しばしテレビ画面に注目していましたが、いつもとはどうやら様子が違います。普段ならキレキレに突っ込んでいく芸人さんたちがすごく遠慮がちに彼女たちに接しているように思われました。

 彼女たちがバラエティー慣れしていないから、というのもあったでしょうが、そこを上手く料理するのが芸人の腕の見せ所、なのに今ひとつ煮え切らないまま番組は進行していきます。まるで偉い大学の先生や、人間国宝級の文化人、あるいはオノ・ヨーコみたいな気を使わなきゃいけない人のように扱われる彼女たちと芸人さんたちの距離感が終始気になる会でした。

 人気モデルといえども、ヨーロッパの超一流ブランドのコレクションに出演しているスーパー・モデルという立ち位置であれば、遠慮がちになるのもまだわかる(今では平然とバラエティーに出て、無人島生活で素潜りまでしている冨永愛も当初は文化人風の立ち位置でした)。そうでもない道端3姉妹がなぜ、このような扱いを受けるのでしょうか。そこには「外国ノリ(つまりは異文化)」に対する日本人の弱さが感じられます。

 それが如実に現れたのは長女、道端カレンが二人の息子の写真を紹介したときのことです。写真を見たくりぃむしちゅー上田が「あ、結婚されてるんですね」とコメントすると、すぐさま「結婚はしてないんです。シングルマザーなんです」と返すカレン。

 なんのやましさも、訳あり感もなく、シンプルに結婚しないで子供を生んだ、という事実を告げる女性がそこにいました。それに上手くリアクションを取れない上田。このとき生まれた一瞬の間には「シングルマザー=訳あり」、「つっこんじゃいけないところか?」という上田の逡巡があったのでは、と推測されます。しかしカレンには、まったくネガティヴな感じはありません。

 この時、芸人さんたちの間には道端3姉妹が持つ異文化性が共有されることになります。「この人たちは、シングルマザーであることをあっけらかんと語って良い別な文化圏から来た人たちなのだ!」と。

 実際には、スペイン系アルゼンチン人とイタリア人のハーフの父親と、日本人の母親のあいだに生まれたとはいえ彼女たちは福井県育ちの日本人です。にも関わらず、その後の彼女たちに振られた話題は「駄菓子屋に行ったことないだろう」など「育ちが普通の日本人と違う人」という印象を強めるものばかりだったのは、芸人さんたちが受け取った彼女たちの外国ノリを強く裏付けるものです。

 このテレビ出演、先日発売された『道端3姉妹スタイル』(講談社)という本のプロモーションであったようなのですが、彼女たちを「福井県育ちの日本人」として芸人がイジれない異質な感じがこの本ではよりわかりやすく伝わります。

 まず注目すべきは母、道端富子より将来モデルになるよう育てられたというエピソードでしょうか。足がキレイに発育するように、正座は厳禁。バスケットボールは太ももが太くなるから、テニスは片腕だけ太くなるからダメ、と徹底した母の指導がここでは明らかにされています。さらに家庭の食事は「くるみを割って食べるのが自然」、「パスタの麺も自分で作っていた」と。徹底した自然派ぶりは、現在のナチュラル系ライフスタイルを先取りするかのようです。

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カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra