開かれる劇場、年齢性別関係なく楽しむスト客
横浜ロック座は2016年4月、劇場に女性優先席を設置。2017年9月には女性無料興行という10日間の興行を実施。さらに、女性限定で川崎ロック座、横浜ロック座共通スタンプカードを配布している。
横浜ロック座のこうした施策については、かつてAV監督として一世を風靡した前任社長・松本和彦の発案が大きいという。AV業界には「女性が観ればシェアは倍になる」という意見が以前からあったが、AVではなかなか成果が出なかった。
男女ともに売れるAVが制作できなかった理由に関し、明確な答えは出ていないが、「男性は脱いでればいいようなところがあるけれど、女性は個人のこだわりが細かく、内容に厳しいからではないか」という指摘があったという。
一方、ストリップは鑑賞者自身がストリッパーや演目から物語を見いだしていくため、AVほど性差を気にせず楽しめる。このことを踏まえ、「女性客を増やしていくことで業界全体を活気づけられるのではないか」となり、こうした企画が生まれていったそうだ。
横浜ロック座のスタッフによると、ここ数年で増えたとはいうものの、2年ほど前はまだまだ女性は男性に連れてこられるイレギュラーな存在で、劇場側の受け入れ体制も整っていなかったという。そこで、横浜では女性用のトイレをウォシュレットにしたり、女性優先席を設置したりと、まずは女性を招き入れるための準備を整えた。
女性無料興行は2017年9月21~30日の10日間行われた。開催時のアンケートには「踊り子さんたちがとてもきれいだった」「女性が観ても楽しめる」など、おおむね好意的な反応が寄せられている。
また、劇場側は女性が不快な思いをしないかを心配していたというが、劇場の雰囲気や男性客に対しても「マナーが良い」「客との信頼関係があって安心感があった」などと評価されている。
最終的にはアンケート記載者だけで合計286名の女性が来館。この中から何名リピーターと呼ばれる女性が生まれたかは不明だが、この試みが及ぼした影響は単なる「何名の顧客を獲得できた」といったものにとどまらないと思う。
なぜならこれは「ストリップ劇場は女性を歓迎している」という宣言ととらえることが出来るからだ。劇場側には「果たしてこの試みが男性に受け入れてもらえるだろうか」という懸念もあったそうだが、実施してみると賛同者も多かったという。
実際、取材中に話を聞くと「せっかくなんだから端っこで観てないで、前の方で一緒に楽しめばいいのになんて思うこともある」「男女問わず同じストリップを応援する仲間だと思っている」「男がストリップの話をするエロ話と思われがちなので、むしろ女性が広めてくれることによって芸能としての魅力が伝わりやすい」と、好意的な声を聞くことが多い。
また、川崎ロック座社長は前述の同人誌『First Strip Guide』内のインタビューで「昔はもっと過激な男性に男性にと向けたサービスもあったけど、僕はそれが衰退に繋がったように思う。『男だけの世界』という考えは足かせでしかなく、男性で女性に来てほしくない方がいたら、それはストリップに入ることに後ろめたさがあるんではないですかね。後ろめたいから良いという方もいるでしょうが、女性が増えて気兼ねなく入ることで、後ろめたい場所という感覚がなくなるんじゃないかなと思います」と話している。
こうした意見は、ストリップが今もってなお「斜陽産業」であり、「なんとかこの文化を残していきたい」と願う人々が多いことも大きく影響しているだろう。風営法により、ストリップ劇場の新設には高いハードルが課せられ、実質的に不可能な状態となっている。
「現行の劇場をなんとか残していきたい」あるいは「一人でも多くの人にストリップを観てほしい」という気持ちは、多くのストリップに関わる人々に共通しているだろう。前述した同人誌も、ストリップという文化を何らかの形で記録しておきたいという意思が含まれているはずだ。