「女なんだから我慢しなさい」
この呪いの言葉、男からでなく、同じ女である母から投げらることほど悲しいものはありません。
リンダのように夫からボコボコに殴られて実家に泣きついたのに親に追い返されたという知人もいます。
ドロシーのような毒母は、今よりも男尊女卑がきつかった時代に生きてきた人たちです。
女は弱く、男に養ってもらうしかなかった。
生きるためには男に服従するしかなかった。
奴隷のような結婚生活でも、離婚よりはマシと思うおかしな価値観。
誰からも褒められず、受け入れられることもなく、女である辛さを心の奥底に押し込めてきた。
だから「わたしはこれだけ我慢したのだからお前も当然我慢すべき」「わたしと同じ思いをしなさい」と娘に呪いをかけてしまう。
悲しいです。
本当の敵は、リンダに暴力をふるうチャックなのに。
四六時中チャックの監視があるため親友にも悩みを告げられず、母親からも見捨てられたリンダの孤独を思うと本当にやり切れません。
結局リンダは母の教えに従い、ボロボロになるまでチャックの言いなりになるのでした……。
母娘関係に限らず、弱者同士のおかしな負のスパイラルは最近よく感じます。
たとえば生活保護受給者を過剰にバッシングする人や、「自己責任」という言葉。
バッシングをする人は、主に自分の生活も苦しい人たちでしょう。
不況で失業やブラック企業や派遣切りが普通になり、弱者が女性とは限らなくなっている世の中です。
もちろん不正受給は許されませんが、実はそういう事例は生活保護受給者のほんの一握りにすぎないと言います。しかし不正受給のことが取り上げられるようになってから、
「楽して生活保護を受ける奴は許すまじ!」という空気になり、本当に保護が必要な人までも受給しづらくなっています。
貧すれば鈍すると言いますが、
本当の敵は弱者を苦しめ虐げる強者やそれを見過ごしている社会だということにみんな気付かなくなっています。
そして、バッシングは諸刃の剣。
いざ自分が困った事態に陥っても「自己責任」と責められるだけで誰も味方にはならず、助けてもくれないのです。
バッシングは生活保護受給の話に限りません。
政治家やタレントやの失言や誰かのちょっとしたミスでもネットで非難の嵐にあっているのを毎日見かけます。
こんなギスギスした社会、息が詰まりそう。
自分が失敗した時、つまづいた時、許してくれる社会のほうがずっとずっと生きやすいのに……。
映画の後半は『ディープ・スロート』大ヒット上映から6年後に切り替わり、
チャックと別れたリンダは新しい家庭を築いています。
優しい夫と子供たちと穏やかな毎日を過ごすことで自分を取り戻したリンダは、
過去の悲惨な経験をテレビで告白するため、ポリグラフテスト(嘘発見機)を受けます。
自分のような不幸な女性が1人でも多く救われるように、という信念で。
チャックに操られるのではない、意志と勇気を持った女性に生まれ変わったリンダの表情は希望に溢れていて、同じ女であるわたしはとても励まされました。
そんな彼女の思いは、絶縁してしまった両親にも届くでしょうか……?
続きは是非劇場でご覧ください。
ポルノ女優の半生の映画というと男性向け色物風の作品に捉えられかねませんが、
むしろ生きづらい日本で懸命に生きる女性にこそ、観て、考えてほしい映画です。
(映画『ラブレース』は2014年3月1日より全国で公開予定です)
■ろくでなし子 /漫画家。日本性器のアート協会会員。自らの女性器を型どりデコレーションした立体作品「デコまん」造形作家。著書に『デコまん』(ぶんか社刊)。『女子校あるある』(彩図社刊)
ろくでなし子ホームページ http://6d745.com/
日本性器のアート協会ホームページhttp://www.jsoa.jp/
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