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「マウンティング女子」って、卑屈な「性格悪い女子」では?

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『女は笑顔で殴りあう:マウンティング女子の実態』筑摩書房

『女は笑顔で殴りあう マウンティング女子の実態』筑摩書房

 「マウンティング」という言葉をご存知でしょうか。元々は生き物のオスが交尾の時にメスに馬乗りになる行為を示す言葉だそうですが、サルの世界においては、オス同士でも群れの序列関係をハッキリさせるために行われるそうです(馬乗りになったオスが群れの中では順位が上)。これが転じて格闘技の世界では、馬乗りになって相手をタコ殴りにする状態を「マウント・ポジション」と呼び、お馴染みの言葉であります。

 近年の芸術的なマウント・ポジションと言えば、軽量級最強の寝技師、青木真也選手の2009年大晦日の「腕折り事件」が有名です。青木選手が軟体生物のように対戦相手の廣田瑞人選手に絡み付き、アームロックを極めながらマウントで顔面を殴り続け、そのまま右腕をへし折った衝撃的な映像は今も動画サイトで確認することができます。この動画を観れば、マウントを取られたものの屈辱やしんどさがすぐさまお分かりになることでしょう。

 しかし恐ろしいことに、格闘技界のみならず我々の日常生活においても“マウンティング”は横行しているようです。瀧波ユカリさんと犬山紙子さんによる対談本『女は笑顔で殴りあう マウンティング女子の実態』(筑摩書房)は、「女子会が楽しくない」「終わった後にモヤっとしたものが残る」という彼女たちが女性同士のマウンティングについて語り尽くした一冊です。

 果たして人間の女性同士によるマウンティングとはいかなるものなのか。そこにも青木選手が見せたような、思わず目を背けたくなる暴力があるのか……? 女同士の暴力、といえばどうしても女子プロレスやキャットファイトを連想してしまい、甲高い声で「バカヤロー!!」などと叫びながらドロップキックを繰り出すようなイメージをしてしまうのですが、女子会におけるマウンティングはあくまで精神的な攻撃のようです。一見、和やかに笑い合っているように見える女子会でも、会話の内容は互いを褒めちぎっているものでありながら、案に相手をdisっている……という事例はよくあることなのだとか。マウンティング女子は、その場にいる女性陣の間で「自分の方が立場が上」と顕示したいがために、言葉や態度で自分の優位性を誇示してしまうのだそうです。瀧波さんご自身も懺悔していますが、虚栄心が強すぎるんでしょうね。仲の良い友人同士という間柄なら、武装する必要もないと思うのですが……交友関係が広いとそうもいかないものなのでしょうか?

 たとえば、既婚女子が独身女子に対して「結婚って幸せだよ~」とアピールすれば、独身女子は「結婚したら張り合いがなくなっちゃって老けちゃうらしいよね~(私はまだ老ける要素なし、まだまだ楽しめま~す)」と迎撃。こうしてマウンティングバトルの火ぶたが切って落とされるようです。どっちが女として上なのか。そのアピール合戦は、友情にヒビを入れたり絶交にまで発展することもあるというのですから穏便ではありません。

 直接的な上位アピールだけではなく「腹見せ」というテクニックもあるそうです。たとえば既婚・子有女性からの「結婚式の準備って大変だよ~」とか「子育てしてると仕事なんかできないよ~」という発言。これは自らの苦労や疲弊をやや自虐的に語っているようでいて、実は、独身・子無女性に対して「自分はあなたよりも先のステージにいるんです」とアピールしているのだそうです。へえ~……著者のお二人はそれをされて「悔しい!」とムッとして、マウンティングをやり返すタイプだったそうですが、それはつまり、「自分が一番でないと気が済まない女王様タイプ」ということなのでしょうか。

 本書ではこれを男性が読めば「女って怖い……」という感想を持っても不思議ではないという懸念が指摘されており、女性たちのマウンティングを「怖い」ということ自体が、男性から女性に対するマウンティング(=女はバカだ、女は男よりも下だ!)という匂いを感じる、と言われています。しかし男性である私個人の意見を申し上げますと「女って怖い……」という感想は一切ありません。本書で目立っているのは、対談者二人の性格の悪さと精神の醜さであり、女性一般に還元できるものではありません。

 既婚女子の幸せアピール、良いじゃないですか。彼氏ができた女子の幸せアピール、良いじゃないですか。ロック・フェスとか行って楽しんでいる女子の幸せアピール、良いじゃないですか。それをどうして「あ、コイツ、わたしより自分が上だと思っているな?」と穿って対抗してしまうのか。それは被害妄想であり、場合によっては治療が必要なのでは、とさえ思ってしまいます。誰かのポジティヴなアピールが自分の不幸を指摘する意図で為されていると思い込み、「やり返す」つもりで相手を傷つける。被害妄想で他人に危害を加えるのはいい加減やめませんか。

 それを「マウンティングするのはその人のコンプレックスのあらわれだから仕方ない」という具合に正当化してしまっているのも悪質です。コンプレックスで許されるなら、これがエスカレートしてイジメになった場合でも許されちゃうじゃないですか……。彼女たちの言う“マウンティング”は、自分の心の醜さ、自分のコンプレックスを、他人を利用して浄化させようとする(「この女には負けてない」とごまかそうとする)卑屈なメンタリティに過ぎないと思います。

 でも、瀧波先生にかかれば「生き物なんだから、序列をつけようとするのは当然」→「女は笑顔でマウンティングする技術を身につけた高度な生き物!(序列をつけるのに暴力を振るったりしないので偉い!)」とマウンティングが正当化されてしまうんでしょうね……! コンプレックスを正当化して他人を傷つけてきたことを笑い飛ばすなんて、相当図太いですよね~。「マウンティング被害者」には到底許せない過去だと思いますけどね。

■カエターノ・武野・コインブラ /80年代生まれ。福島県出身。日本のインターネット黎明期より日記サイト・ブログを運営し、とくに有名になることなく、現職(営業系)。本業では、自社商品の販売促進や販売データ分析に従事している。

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カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra