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さすらいガールに秘められた人間力を思い出す、キャベツで作る「肉まん」

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こんにちは。自意識和代でございます。
みなさまいかがお過ごしでしょうか?
あたりは春の気配だというのに、大雪バレンタインデーについた尻もちがいまだに痛む今日この頃です。

バレンタインケーキの回でケーキを作っていた時。
卵と砂糖をシャカシャカと泡立てていたら、腕が軽い筋肉痛になり、
肉まん屋バイトでの筋肉痛を思い出しました。
竹でできた大きなせいろの中に肉まんを入れて運ぶのですが、けっこう腕の力が要るのです。
ひとつのせいろに大きな肉まんを10個×せいろ2段。多い時は3段。

シャカシャカとケーキ生地を泡立てながら、肉まん屋バイトで一緒だったUさんを思い出していました。

~回想~

とある肉まん屋。
ガラス張りの作業場と売り場が左右につながっている外観です。
お客さんに見られながら肉まんを包み、蒸し、餃子も焼いていました。
肉まんを包む様子を見せ、蒸気と匂いでお客さんを引きつけようってことでしょうかね。

ある日、Uさんはガラス張りの作業場で肉まんを包んでいました。
すると背の高い男の人が作業場のほうに近づいてきて、ガラス張りの壁が途切れた所で何やらUさんと話していました。
「元気にしてるか?」「はい、みんな元気にしてます」etc……
少しだけ言葉を交わすとその男の人は立ち去っていきました。
なんだか面会みたいでした。

誰? と思いつつも特に触れずにいると、Uさんのほうから「元旦那」と一言。
元旦那!?
Uさんには子供がいると聞いていましたが……。
そうだったのか……。

「私、好きなことしかしてこなかったからね!」
肉まんを包みながらUさんの告白が始まりました。

高校時代は先生と付き合っていたとな。
「(Uさんから)付き合ってって言ったら、先生何にも言わずに付き合ってくれたな~」だそうで。
先生……Uさんの魅力に抵抗できなかったんですね。バレたらお縄だぞ。

高校卒業したら家出して彼氏とラブホを転々として生活していたんだそうで。
へ、へえ……ボヘミアン……。

その後、旦那さんと出会って結婚して、子供を産んで、離婚して。
そうか……今は2人の子供のお母さんなのか。

「この間、子供堕ろしたの」
へ!? 

実は今いる子供は2人とも父親が違うんだとな。さらに離婚後別の男の人と知り合って……。
3人目がお腹にできた時に、さすがに3人とも父親が違うのはちょっと……と思ったんだとな。
口あんぐり。

浮気っぽいとか、男が途切れないとか、男にだらしないとか。
若い頃、そういう女性が苦手というか敵視してしまうところが私にはありました。
避妊しろよとか普通のツッコミが頭に浮かんだのですが、言う気になりませんでした。
しかし口あんぐりしたり呆れたりしたものの、Uさんを嫌いになれませんでした。
腹に何かしら抱えながらもUさんに魅了されてしまうというか。
男たらしの前に人たらしなのかも知れません。

たとえば、調理場にいた癇癪持ちの大柄な中年男。私はこの男が大嫌いでした。
何か気に入らないことがあると、睨みながら変な屁理屈で絡んでくるのです。
その理不尽さは、普段温厚で気弱な店長を怒鳴らせてしまうほどでした。
そんな中年癇癪男も、Uさんにかかると大人しくなるのです。
楽しそうに話しています。
「凄い。Uさん猛獣使いみたいだわ」と思いました。

また、ある日のこと。
あるパート主婦が私にいつもより冷たく接してきたことがありました。
「あら? 私なんか悪いことでもしたかな?」と思いましたが、思い当たる節がありません。
私は腑に落ちないまま売り場にいて、そのパート主婦が休憩を取りに出て行く後ろ姿を見ていました。
……と、Uさんが肉まん包みを一段落させ、売り場にいる私のほうへ近寄ってきました。
「あのね」
Uさんによると、実はそのパート主婦は肉まんが包めないとのこと。
だから売り場だけがそのパート主婦のステージなんだそうで。
私が売り場に立って肉まんや餃子がたくさん売れると癪に障るんだとか。

は!? なんだそれ。子供かよ。
私が売り場に立ったからといって必ずたくさん売れるわけじゃないし、売れない日だってあるよ! とUさんに訴えました。
しかし、あんまり売り場で頑張らないほうがいいとのこと。
Uさんは肉まん包むのが速いし上手いし、売り場もさばける人でした。
一緒に仕事に入る時はそのパート主婦をさりげなく気遣っていたんですね。
「売り場をなるべくパート主婦に譲る。もしも上の人に売り場に立つように言われてもなんとなく頑張らない」というのが暗黙の了解だったようです。

なんと面倒なパート主婦!!

それにしても。
パート主婦の態度を私が気にし始めたのを察知して、Uさんから声をかけて解説してくれて助かったし凄いなと思いました。
Uさんが教えてくれなかったら、自分でパート主婦の状態に気付けたかどうか怪しいです。
バイト先のこういう些細なゴタゴタは端から見ると本っ当~にバカバカしいのですが、中にいる間はその些細なことがじわじわとストレスになったりします。

後日、Uさんがそのパート主婦に肉まんの包み方を教えているのを目撃しました。
しかしパート主婦はちょっとやっただけで諦めて「できない」と言って出て行ってしまいました。
それでもUさんは変わらず普通にパート主婦と喋り続けるのでした。
パート主婦はUさんの2回りくらい年上だったと思うのですが、よっぽどUさんのほうが大人だなと思いました。

なんで拗ねたおばさんに気を遣わなきゃいけないんだよ~!!
きぃぃぃぃぃ~!!

「あそぼ!」
空気のスイッチを切り替えるようにUさんが言いました。

「何して遊ぶ~?」
……確かに客足まばらな時間帯だな。
遊ぶ……。遊ぶ……。

生地……。

生地の発酵は一旦始まると止められないので、肉まんを包んだ後の余り生地は破棄されます。
肉まんの数が足りなければ、新たに生地をこねることになります。
機械で1回こねる分量は大体決まっているのですが、中に詰める肉だねを量りつつ包んでいくと少量の生地が余ります。

そこで。
破棄される余り生地を使って遊びました。
Uさんはてるてる坊主を小さくしたような人形を作っていました。マスコットみたいで可愛いです。
私はバラの花を作り、バラの両サイドに葉っぱを作って添えてみました。
「我ながらまあまあの出来じゃないかい?」などと内心悦に入っておりました。
しかし、蒸し上がって蓋を開けたらUさんに笑われてしまいました。

「これ、ちんぽだよ!」

湯気が立ち上るせいろの中を覗くと……確かに建立されていました。
生地は蒸せば膨らむ、ということを忘れて作ってしまったのです。
両サイドに葉っぱなんか添えるんじゃなかったわ……。

バラになりきれなかったちんぽを破棄。すごすごと仕事に戻りました。

 

(波濤)(波濤)(波濤)(波濤)ザッパ~ン(波濤)(波濤)(波濤)(波濤)

 

では参りましょう。
「肉まん」

今回ご紹介するレシピは、肉まん屋レシピの完全な再現ではないです。
肉まん屋の生地レシピの記憶はおぼろげなんです。
手持ちのレシピ本と肉まん屋時代の記憶を比べて
「お湯じゃなくて牛乳だったな~」とか、
「ドライイーストは確実に入っていたな~」とか、
「油脂分書いてないけど、肉まん屋では何かしら使われていたよな?」とか、その程度です。
あしからず!

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自意識和代

人の好意をなかなか信じられず、褒め言葉はとりあえず疑ってかかる。逆にけなし言葉をかけられて「なんて率直なんだ!」と心を開くことがある。社交辞令より愛あるdis。愛がなければただのdis。凹んじゃうよ! ラブリーかつ面倒なアラフォーかまってちゃんである。