しかし、自分の嫁を「メシマズ嫁」と言うダンナさんは「可哀想」なのでしょうか? 前述したとおり、「家庭のキッチンに立つのは女性の仕事」という時代ではもはやありません。「嫁のメシが不味かったら自分で作れば良いじゃん!」、「作ってもらっているだけありがたいと思え!」、「外食やお惣菜で全部済ませれば良いじゃない!」……こんなふうにダンナへの批難があってもおかしくないでしょう。
個人的に「家事は女性だけの仕事ではない」という意見には諸手を挙げて賛成です。ただ、既婚男性として正直な意見を申し上げるならば、嫁のメシが不味いから「自分で作る」、「外食やお惣菜で済ませる」という選択もなかなか難しいものに思えます(収入を得る主な担い手が夫である場合は特に)。ここでは「仕事が忙しくて料理なんかできない」という物理的な問題もさることながら、家庭における役割のバランスが崩れてしまうのが心配なのです。
もちろん、収入も家事もどちらも夫が担当している場合でも、バランスがとれている夫婦もいるでしょう。でも一方で自分が担当していた役割(あるいは自分が担当すべきものと考えていた役割)を、夫にやってもらうことで「自分の役割を奪われた」と感じる女性もいると思います。料理は家事の全ではないにせよ、その一部分が奪われることでも役割のバランスは変わります。
このバランス崩壊は、「夫にとって自分の役割はなにか?」というアイデンティティの危機さえ招きかねません。「収入の担い手」というアイデンティティで生きていた夫が働けなくなった途端に自分の存在意義を見失ってしまうことがあるのと同様に、「料理をする」という仕事を奪われたことで悩む妻がいてもおかしくないと思われます。
そして円満に見える夫婦でもこの辺のバランスって微妙な気がするんですよね。夫が「家事に協力したい」と考えていても、妻の側が「こっちの領域に入ってほしくない(そもそも家事が好きだったり、あとは夫の家事レベルが自分の求めるレベルに達していなかったりして)」と思うこともありますし、逆に妻の側が「外に出て働きたい」と思っても、夫が「いや、稼ぐのは俺がやるから」と反対することもあります。
また「食事を作ってもらっていてありがたい」と思っているからこそ、メシマズでも我慢してしまう人は多いハズです。こうなってくるとホントに日々堪え難きに耐えているメシマズさんのご家族たちが気の毒に思えてきますね……。
■カエターノ・武野・コインブラ /80年代生まれ。福島県出身。日本のインターネット黎明期より日記サイト・ブログを運営し、とくに有名になることなく、現職(営業系)。本業では、自社商品の販売促進や販売データ分析に従事している。
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