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ごった煮社会から仕分けされて東京へ――地方出身者のリアル『ヤカラブ』

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「ヤカラブ」(ミリオン出版)

「ヤカラブ」(ミリオン出版)

 「悪い人」の意味で「輩(やから)」という言葉を使うのが、どこまで一般的になっているのかまったくもってわからないのですが、私の生活圏でもチラホラこの言葉を耳にするようになりました。仕事の打ち合わせなんかでも、こちらのちょっとした弱みにつけ込んでどうにか金を引っ張り出してやろうとする取引先を「要するに、あの会社の人たちは輩ですよ、輩」と呼んだりします。「半グレ」とか「関東連合」とか、アウトロー関連の新しいワードは他にもいろいろ聞きます。しかし、「輩」の使用法を鑑みると、こちらはアウトローな人たち全般を指し示すようですから、かなり広い意味を持っている単語のようです。

 コンビニの前でたむろしている高校生の前を横切る時、いまだに緊張してしまう臆病者な私としては、できれば輩の方々とあまり関わりを持たずに暮らしたいところです。もし向こうからグイグイ好意を示されても「いや~、その、輩の方はちょっと~……」と小市民的な態度を取っていきたい。

 そんな私ですが『ヤカラブ』(ミリオン出版)というタイトルには惹かれてしまったんですよ……。こちらは昨年(2013年)惜しまれつつ休刊したギャル向けファッション誌『SOUL SISTER』に連載されていた小説を単行本化したもの。文字通り「輩」+「Love」で「ヤカラブ」って、小林製薬的なネーミングもかなりグッとくるんですが(『ワキガ』を『ガード』で『ワキガード』みたいな)、本書の売りはなんと言っても、現在モデルやタレントとして活動する女性たちの過去をベースにしている点です。彼女たちに憧れを抱く若い女性読者にとっては、「まぢかっけえ」世界がこの本の中に広がっているわけです。

 しかし「ヤカラブ」は、日常的に読書を嗜まれている方には、かなり退屈な読み物だと思います。本書は4人の女の子たちの過去の恋愛を元にしたオムニバスですが、話としては紋切り型です。初恋の相手の名前をお互い腕に彫り合った(が、後に根性焼きで消す)とか、14歳で出会った男が暴走族の総長で妻帯者(そして離婚するする詐欺に会う)とか、退屈な学校と厳格な両親に反発して家出(そして男狩りへ)とか、婚約していた暴走族の総長が逮捕されて少年院行き(そして妊娠中絶へ)とか……基本的には00年代に流行したケータイ小説を彷彿とさせるものでしかありません。

 ただ、その退屈さが妙なリアリティーを醸し出しています。中学最後の夏に処女を喪失した……とか、フィクションとして描くなら、普通はもっとドラマティックな展開や謎を散りばめるハズじゃないですか(ケータイ小説だとしても難病や暴力をスパイスとしてもっと“盛って”います)。それがかなりあっさり片付けられ、何の問題もなく(最初は痛かったけど)セックスが気持ちよくて、その後、猿のようにヤリまくっていることが語られるだけ。

 これはある意味健康的だと思いますし、輩じゃなくても共感してしまうポイントではないでしょうか。ドラマがないからこそ、リアリティーがある、という逆説ですね。むしろ、処女を失う前の「興味はあったけど、なかなか進まなくて……」という心情を細かく描写しているのも「普通!」という感じ。まあ、みんながみんな人気AV監督の野本義明さんのような面白脱童貞エピソードを持っているハズもなく(参考:初体験は年上ナースのア●ルほじり!)、普通で当たり前なわけですよ。ただ、脱処女、脱童貞は人生におけるマイルストーンのひとつとしても考えられますから、そこにドラマを盛り込むのが物語の作り方としては常套句であるはずなのに、あえてそれをしないのが逆に新鮮なのです。

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カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra