カルチャー

妊娠中・産後のセックス問題にも斬り込む『ママだって、人間』

【この記事のキーワード】
『ママだって、人間』(河出書房新社)

『ママだって、人間』(河出書房新社)

 前回の『いくもん!』に関するコラムでも書かせていただいた通り、私は今のところ子供を産む予定がありません。人間の子供が特に好きでもなければ可愛いとも思えないので、「母性」という言葉を聞くたび「私には備わっていないものね」と考えておりました。「母性」が一体何であるかは、未だにさっぱりわからないままです。

 きっと子供を産む女性には、私にはわからない「母性」が溢れていて、だからこそ出産・育児ができるに違いない……そんな考えは、大きな間違いであることを教えてくれたのが、田房永子さんの『ママだって、人間』(河出書房新社)です。(男性目線のレビューはコチラ

斬新でリアルな妊婦・母親像

 『ママだって、人間』には、著者をモデルにしたエイコ(32歳)が主人公です。私はこの漫画を読んで、まずエイコの造形の可愛さにやられました! エイコはいわゆる万人受けする「美人女性」を表す記号(大きな瞳、サラサラの髪、スカート着用、など)では、描かれていません。それどころか、一般的な「お母さん」という記号(エプロン、笑顔、まとめた髪、など)すら、エイコのキャラクターデザインには使われません。

 エイコはピロンとアホ毛のはねているおかっぱ頭で、眼鏡をかけています。そしてたいてい体のラインが露にはならない、スエットのような服装。眼鏡をかけて、寝癖のついた妊婦さん像、お母さん像がとっても斬新です。

 そしてそんなエイコの表情は、多岐に渡っており、実に人間的です。「(出産して膣の感度が上がるのが)楽しみだな」と言いながらも、つわりでものすごく辛そうな表情を浮かべたり(p.8)、母親学級で青ざめたり、怒りマークを浮かべていたり(p.24)。極めつきは出産後のシーン。「大変なものを生んでしまった……」と考えるエイコの髪は、牢獄に囚われたマリーアントワネットのように真っ白で、表情は青ざめ、目は血走り、頬には汗が浮かんでいます(p.52)。「母子健康手帳」の母子のマークからは幾億万年も距離のある、実にリアルなひとりの人間として、妊娠、そして出産後のエイコは描かれます。

 そんなエイコがとっても可愛くてかっこ良いんです!

 p.27の、スカートを履いたエイコが母親学級にて堂々と自己紹介する妄想のコマ。このコマは、下からのアングルで描かれています。キューピー人形のようにむっちりした足裏から脚、そして全身を、読者が下から見上げるような構図になっています。妄想とはいえ自分の考えを述べる堂々としたエイコが大変かっこ良いのです。

 ここでは母親学級になじめないエイコが、あっさり終わらせた自己紹介をこう言えば良かったなと妄想します。

「私は妊娠してからなぜ夫との子供しか生めないことになってるんだろうと思うようになりました/妊娠という状態があまりに楽しくておもしろくて/人生で2~3回じゃなくてもっとしたい、そう思うようになり/イイ男がいたらその人の子を産む/女の体は本来そうできてるんじゃないかななんて思います/同じことを考えてる方がいたらお話したいです!」

 はいはい! ワタシ、ワタシ! ぜひお話したいです!

 まず、「妊娠という状態が楽しくておもしろい」という考え方に、私は初めて触れたので大変勉強になりました。これまで「母性」を信じたことがなかったので、「妊娠なんて絶対辛いだけに違いない」と決めつけていたのです。実際、妊娠初期のエイコは、「(つわりの苦しさは)これが終われば赤ちゃんに会える! って思うとフシギとがんばれるんだなァ~」と、「勝手に湧いてくる母性」でつわりを乗り越えた高校の時の教師の言葉を思い出しながら、「いやいやいやぜんっぜんがんばれないって、自分の赤ちゃんってのがピンとこないもん」と考えます。「勝手に湧いてくる母性という鎮痛剤」の恩恵を受けることなく、ひどいつわりに苦しみます。

妊娠中・産後のセックス問題

 しかし、つわりに苦しみながらも、なんとエイコは妊娠によって、新たな快感にも目覚めるのです(あくまでもエイコさんの場合は、ではありますが)。妊娠中のセックス、すごく気持ちいいんですってね……? そんな情報、生まれて初めて聞きましたよ!

1 2

大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』