連載

猫たちの「どうぞどうぞ」…全盲の猫に見る猫シェルターでの集団行動

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Photo by Krzysztof Belczyński from Flickr

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短気集中連載『猫と鬱』

 さて、「寝たきり」というのがどういう状態かというと、あくまでも私の場合ですが、

「お前はアホかぁぁあああああーーー!!」

 などの寝言で怒鳴ることが多いです。そして自分の怒鳴り寝言で深夜、目が覚めます。そういう時の私は汗だくなので、体は海からあがったばかりのアザラシのごとく、びしょ濡れです。ケツっぺたに張り付く下着やパジャマを替え、汗で濡れた髪を乾かし、布団の濡れた場所を避けて、再び就寝するのです。(※これは一般的な鬱の症状ではありません)

 そんな状態なのであまり自分の心身の健康に自信がなく、猫シェルターでのボランティアも、続けられるのだろうか? と不安でした。

 ボランティア一日目から帰って、案の定2日ほど寝込みました。けれど、鬱で動けない系統の寝込みかたではなく、単に筋肉痛と疲れから来るものだったので、少し希望が持てました。普段全く運動していない“なまくらボディ”なので、脚と腰がパンパンでした。

 そして、私は二回目のボランティアに行くことができました。

 前回と同じく、ほっくりほっくり猫トイレをお掃除していると、ゴロゴロ喉を鳴らしながら、全力で体をスリ寄せてくる茶トラさんがいました。まるで全身で、「ありがとうーありがとうー」と言っているようです。彼女のケージのお掃除を終えて、他のケージのお掃除に移っても、茶トラさんはまだ一生懸命、体をスリ寄せてくれます。けれど哀しいことに、彼女と私の間にはケージという越えられない壁が立ちはだかっているのでした。結果、茶トラさんはケージの網にゴシゴシ体をスリ寄せるかたちになります。それでも構わず、全身で感謝の意を表す茶トラさんを見ていると涙が出そうになるのでした。目を細めて喉を鳴らす茶トラさんの「ゴーロゴロゴロ」、という音をBGMに、他のケージをお掃除しました。

 シェルターでもひときわ大きなケージに、体の大きな猫さんがいます。5~6歳だそうで、見るからに中年感漂う、立派な黒白のオス猫さんです。猫さんというのは、そのくらいの年齢になると、オーラは人間の存在感とほとんど変わらないように感じます。黒白さんは、私がケージを開けてトイレを掘り返すのを賢そうな瞳でじっと見ていました。

 掃除中ケージから出たがる猫さんは、キャリーケースに入ってもらうのですが、この猫さんは必要なさそうね……と思ったのも束の間、黒白さんはつるりとケージから出てしまいました。ものすごく出たくて出た、というよりは、「おぅ、ちょっと出てみるか……」とゆったりした雰囲気なのですが、いざ捕まえようとすると、悠々と手の届かないところに逃げてしまいます。ひとしきり、フロアを散策の後、黒白さんは「どりゃあっ」とケージの上に飛び乗ると、バリバリと爪砥ぎを始めました。いかにも「俺は忙しいんだぜ……」という風情です。

 黒白さんを捕獲しようと手を伸ばしかけた私は、「おひかえなすって」のポーズで固まりました。黒白さんの爪が、500円玉くらいはあるんじゃないかって程大きく、ピカピカと光っていたからです。爪砥ぎに勤しむ前脚は筋肉質で、力こぶができていました。

 「さすがとっつぁん猫……迫力が違う! あんな爪で引っかかれたら、私の腕なんてバラバラだ!!」と、私は震えました。爪砥ぎの手を休めた黒白さんと目が合いました。ひぃぃ……、緊張の一瞬。

 すると、彼は表情を満面の笑みに切り替え、「でへへ~! そんなに怖がらないでよ!」という風に、頭をケージに擦り付けたのでした。思いのほか可愛らしいとっつぁん猫のしぐさに、拍子抜け&突然の胸キュンです。頭を軽くカリカリと撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細める、黒白とっつぁん猫。抱っこにも快く応じてくれ、池から掬った鯉のごとくビチビチ体をくねらすこともありませんでした。そして、とっつぁんは、「あばよ!」とケージへと戻って行ったのでした。

 要するに、私は黒白さんにおちょくられたのだと思います。しかし猫好きなので、例えおちょくられていたとしても、猫に相手をしてもらえたことに嬉しさがこみ上げてきます。猫好きにとっては、猫に無視されるのが一番辛いのですから。

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』