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猫たちの「どうぞどうぞ」…全盲の猫に見る猫シェルターでの集団行動

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猫たちの集団行動

 貫禄たっぷりのとっつぁん猫と対照的なのが、可憐な子猫さんたちです。

 床の掃除をしていると、後ろ脚で立った状態で身を乗り出し、ケージの網に前脚をつっぱらかして、熱心に見学している子猫がいました。まだベビーブルーの残る目をまん丸に見開いて、「ほええ~!」と、驚いたように私を見ているのでした。「可愛いな~」と思って覗き込むと、ケージには子猫が二匹おり、一匹は全盲でした。眼球が摘出されているようで、まぶたが閉じたままです。目が見えない子は、ケージに近づいた私の気配を察して、必死にシャーシャー言っています。目が見えるほうの子猫は、怖がっている全盲の兄弟を守るように寄り添っていました。

 怖がらせてごめんね、とその場を離れました。

 シェルターには、別の全盲の猫さんもいます。1歳未満と思しき子猫さんで、この子もまぶたは常に閉じたままです。ボランティア活動が終わってから、この猫さん(みっちゃん・仮名)に遊んでもらいました。おもちゃをみっちゃんの前でゆらゆらさせると、みっちゃんはおもちゃに猫パンチを浴びせます。けれど、部屋には他の遊び盛りの子猫もいて、みっちゃんが遊んでいる最中のおもちゃに、どうしても一緒にじゃれついてしまいます。結果、おもちゃは別の子猫の元に。

 キャットタワーのてっぺんにもするする登り、日常生活には何の支障もないみっちゃんですが、おもちゃ闘争に関しては不利なようです。そこで、私は目の見える猫さんがおもちゃを落とした際に、みっちゃんにおもちゃをパスしました。すると、みっちゃんは、私の顔を見上げて「これ、おもちゃ?」という風に首をかしげたのです。その可愛らしさ、可憐さ! ハートを打ち抜かれた私は、自分の存在がみっちゃんに認識されたことで舞い上がりました。みっちゃんはおもちゃを咥えて、部屋の隅っこに移動し、別の子猫とごっつんこしていました。

 このようにおもちゃで猫同士のいろんな関係性が見えてきて、興味深いです。一匹の猫さんの前でおもちゃを振ると、大抵おもちゃにじゃれついてくれます。けれど、三匹の猫さんの前で同じようにおもちゃを振っても、誰も手を出そうとしないのです。これが「三すくみ」と呼ばれる状態なのでしょうか?

 「どうぞどうぞ、お先に」「いえいえ、猫田さんこそ、どうぞ」「そんなそんな、猫山さんが手を出さないのに私が使うわけには……」と、猫さんたちが譲り合っているように見えます。

 しかし、どんな集団にもそんな譲り合いの空気など関知しない、末っ子気質は存在するもので、お兄さん・お姉さん猫の遠慮の輪に乱入する一匹の子猫がいました。青い目の稲妻、テンちゃんです。テンちゃんはまだ子猫で、おもちゃを見るとどうしても我慢ができずに手を出してしまうのだと思われます。おもちゃをがっ! と咥えて走り去ろうとして、オレンジ色のお姉さん猫にぶっ飛ばされていました。

 人間の世界で言えば、お兄さん・お姉さんのトランプの輪に入れてもらえなかった小さい子が、我慢できずに乱入し、トランプの札をぐちゃぐちゃにしてしまう。そんなシーンにそっくりでした。

 叱られたテンちゃんは、「へへへ……怒られちった!」とあまり気にしていない様子です。それもそのはずで、テンちゃんはしょっちゅう、このオレンジ色のお姉さん猫に叱られているのです。叱られても、ぶっ飛ばされても、へこたれないし気にしない。それがテンちゃん。対してオレンジさんは、「不正許すまじ!」と肩を怒らせています。集団生活においては、どちらかというとオレンジさんのような生真面目な性格のほうが大変だと思うので、「お姉さん、頑張れ!」と私はオレンジさんに心の中でエールを送りました。

 

 ■大和彩/大学卒業後、メーカーなどに勤務するも、会社の倒産、契約終了、リストラなどで次々と職を失う。正社員、契約社員、派遣社員など、あらゆる就業形態で働いた経験あり。

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』