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猫には復讐心とかないのだろうか? 猫に救われた無職の私

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pre class="stxt">Photo by Jetske from Flickr

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短期集中連載『猫と鬱』

 思えば私はこれまで、悩みごとは仲良くなった地域猫、シロちゃんに相談していたのでした。

私「シロちゃーん……私、会社クビになるかもしれないんだよぉ~」
シロ「撫でて撫でて! お尻ポンポン!」
私「(シロちゃんをなでながら)それで今パワハラされてて……」
シロ「何言ってるかわかんない! 撫でて撫でて! もっともっと!」
私「(ポンポンしながら)今日なんか、会社のトイレで2回も吐いちゃって……」
シロ「いいからいいから、もっと撫でて!」
私「(無言で撫で撫で……ポンポン……)」

 シロちゃんは、私が昔会社をクビになった頃、唯一ご近所付き合いをしていた近所の真っ白い猫さんです。彼女は夜、いつも私が会社から帰る道の途中で待っていてくれました。暗い夜道、街灯もあまり点いていない道の途中、シロちゃんの白い体がぼうっと浮かびあがっているのを見ると安心していました。私にとっての帰り道は、シロちゃんと一緒に歩いたり、遊んだりする時間でした。

 シロちゃんを撫でたり、お尻をポンポン叩く間、私はその行為に没頭できて頭の中を空っぽにできたので、辛い時にはとても慰められました。

 さらに、私が会社をクビになろうと無職になろうとシロちゃんは一貫して、

「撫でて! お尻ポンポンして!」

 という態度だったのにも救われました。シロちゃんから見れば、私がどんな社会的立場であろうと関係ないんだなぁ、と気付かせてくれたからです。

 そう。結局のところ、無職だろうと正社員だろうと、私という人間は変わらないんだ。そう実感させてくれたのはシロちゃんでした。そんな当たり前のことに、私はシロちゃんがいなければ、ずっと気付かないままだったと思います。

 猫さんたちからは学ぶことが多いです。今ボランティアをさせてもらっている猫シェルターの猫さんたちは、みんな何らかの事情で飼い主さんと暮らせなくなって、シェルターに来たわけですが、「あの飼い主に復讐してやるんだ!」という猫さんには出会ったことがないです。猫は偉いなぁ……いや、実際は心の中では人間を快く思っていない猫さんもいるかもしれませんが、少なくとも猫が人を殺した、というニュースは聞いたことがない。私は未だに、過去のあれこれを思い出してはグギギギ……と歯ぎしりする日々なのに。

 ちなみにシロちゃんは、ずーっと喋り続けるタイプの猫さんでした。しかもちょっと変わっていて、「ケッケッケッ」と、錆び付いたオルゴールのような声で、お喋りしてくれるのでした。猫シェルターにも、喋るのが好きな猫がいます。長毛のペルシャ猫さんです。

 白いロングヘアーのペルシャさんが、優雅な姿でクッションの上でくつろいでいる様子は、いかにもお嬢様という雰囲気です。けれど、彼女の毛皮にはところどころ毛玉があり、それらが見事な猫毛フェルトを型作っています。毛玉があるということは、ブラッシング嫌いなのかな? と思ったのですが、ブラシを手に近づくと、「あら、ブラッシングする? よくってよ、うふふ……」と私をまん丸い目で見上げてくれました。そして、私がブラシを入れるたび「ニャッ」と掛け声をかけてくれるのでした。ひと梳き入れて「ニャッ」、もうひと梳きで「ニャッ」、さらにひと梳きで「ニャッ」、と餅つきの合いの手のように声を掛けてくれます。ある程度ブラッシングできると、ペルシャさんは「う~ん」と気持ち良さそうに伸びをして、お腹を丸出しにしました。

 ペルシャさんは沢山毛玉をくっつけていても、まったく気に病んでいなさそうなところに、私は心打たれました。毛玉がフェルト状になっていても、心は錦! なのです。すぐ何事もくよくよと気にしてしまう私は見習うところが多いです。

 

■大和彩/大学卒業後、メーカーなどに勤務するも、会社の倒産、契約終了、リストラなどで次々と職を失う。正社員、契約社員、派遣社員など、あらゆる就業形態で働いた経験あり。

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』