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ナチュラル系女子は眞木蔵人の生き方に学べ

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『アイ アム ベックス=スプレッド ザ ラブ』白夜書房

『アイ アム ベックス=スプレッド ザ ラブ』白夜書房

 俳優、そして現在はプロ・サーファーとして著名な眞木蔵人の2冊目のエッセイ集『アイ アム ベックス=スプレッド ザ ラブ』(白夜書房)は、読んでいて震えるような名著でした。今回の著作は2008年に刊行された『BLACK BOOK 蔵人独白』(コアマガジン)に引き続き、『BUBUKA』(白夜書房)やメールマガジンに掲載された2008年から2014年のはじめまでの記事をまとめたもの(なお、前著は『真木蔵人』名義による)。

 前著はさまざまな文化人からも賞賛され話題を呼びましたが、本書の表紙カヴァーを外すと高橋源一郎から絶賛された伝説的名文が再掲されています。

「ニセセレブはシャンパンもキャビアも一人で食っちまう。でも子供たちはチューチュージュースの半分を友達にあげんだよ。そしてみんなで遊び始める。それが本当のセレブだ。持ってないやつが隣にいたら可哀想だし、一緒に分かち合いたいし。だからフェリックスのガムも、パピコも半分に割れるようになってんだ、あげられるように。一人で楽しむんじゃなく、友達を作るために。十円のあんな小っちゃなものだけど、子供の気持ちを大切にしてるんだ」

 これはまさに「スプレッド ザ ラブ(Spred The Love =愛を広める)」。これだけでも震える。

 しかし、語られるのは愛ばかりではありません。本書の語りは、愛と怒り(『アイ アム ベックス(I Am Vex=怒っている)』)が常に並走しています。

何が起きてもブレないナチュラル観

 2011年3月に起きた地震とそれに伴う原発事故以降、彼の言葉には怒りのモードが増えていきます。しかし、反原発とか原発推進だとか、特定の政治的派閥に偏っているわけではないのがとても興味深い。

 彼が誰の立場に立つかと言ったらやはり「自然」です。汚染水を海に流しているのは、自然のために良くない。電力がないからクーラーをつけられないどうしよう、じゃない。クーラーをつけなくても良い生活をしろ。人間を中心に物事を考えるのではなく、人間が自然のなかで生かされているこの世界観は、サーファーならではの感覚なのでしょうか。

 地震が起こる前にも、彼は迷い込んできたトイプードルを見て、こんな風に語っていました。

「トイプードルが自然化、動物化していっているのを見た時に、野生を持ってんだなと思った。家のこたつでも寝っころがるけど、外も走りまわる。実際うちの犬の在り方は多様になってる、新犬類になってる。室内犬っていうのを、俺は信じてない。それは誰が決めたんですか、それはどの犬の話ですか。書いてあるだけでしょ、ネットに載ってるだけでしょ。あいつは言ったのか、俺を家に入れてくれって」 

 これも知識や情報じゃなく、目の前にあった「自然」から得た言葉です。その世界観に、地震と原発事故があってから急に目覚めたわけではないから、ブレないし、リアリティーをもった言葉になる。もしかしたら「常識外れ」かもしれないけれど、確かにそうだ、と頷かざるを得ない言葉が本書には詰まっています。

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カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra